「日本では敗血症患者はどこで治療されているのか?」。この疑問に対する急性期病院の答えが2023年の2つの論文で示されました。
1つ目は我々Japan Sepsis Allianceが2010〜17年までのDPC(Diagnosis Procedure Combination)データを解析した“Mortality analysis among sepsis patients in and out of intensive care units using the Japanese nationwide medical claims database:a study by the Japan Sepsis Alliance study group”1)です。この論文では敗血症が疑われる患者116万7901人のうち、ICUで治療されたのは19万3612人(16.6%)、ICU以外で治療されたのは97万4289人(83.4%)でした。傾向スコアマッチングを行った結果、ICUで治療された患者の院内死亡率は25.8%、ICU以外で治療された患者の院内死亡率は29.2%とICUで治療された患者の死亡率が低い、という結果が出されました。
もう1つの論文は、“Association Between Levels of Intensive Care and In-Hospital Mortality in Patients Hospitalized for Sepsis Stratified by Sequential Organ Failure Assessment Scores”2)です。2018年4月〜21年3月まで3年間のDPCデータを用いてSepsis-3の定義を満たした敗血症患者9万7070人を対象としています。1万9770人(20.4%)がICU、2万3066人(23.8%)がHCU、5万4234 (55.9%)が一般病棟で治療を受けていました。傾向スコアマッチングの結果、ICUに入室した患者の死亡率がHCU入室患者より低かったのは、SOFAスコア12点以上の重症患者群のみという結果が示されています。
DPCデータを解析した2つの論文から、日本では急性期病院においても敗血症患者の約8割はHCUまたは一般病棟で治療を受けていることが明らかになりました。高齢化社会を反映して、敗血症患者の平均年齢は70歳を超えていますが、DPCデータの解析からはICUへ入室した理由・入室しなかった理由は明らかになりません。高齢者が多い敗血症診療において、「どこで入院治療を行うか(ICUに入室するか否か)?」は患者の医学的な状態だけでなく、ACP(Advanced Care Planning)やICUの病床数など様々な要素を考慮して決められます。
「敗血症患者の入院治療をどこで行うか(ICUに入室するか否か)?」という臨床疑問には医学的、医療資源的なエビデンスの蓄積と一般市民を巻き込んだ議論がまだまだ必要な段階です。
【文献】
1)Oami T, et al:J Intensive Care. 2023;11(1):2.
2)Ohbe H, et al:Criti Care Med. 2023;51(9):1138-47.
松嶋麻子(名古屋市立大学大学院医学研究科救命救急医療学教授、日本敗血症連盟)[敗血症の最新トピックス㊼]