すべての患者ならびに疾病には臨床的なストーリーがある。「原因」と「結果」とも言い換えられ,予後や臨床的展開を評価し,適切な治療法を選択する上で臨床的なストーリーを考えることは大変重要である。心不全においても同様である。心不全の増悪を回避するべく,心不全の標準治療に加えて直接的な原因を特定し取り除くべきである。まず心不全が疑われた際に「心肥大なのか心拡大なのか」「心エコー検査でLVEFが低下しているのか正常なのか」に分類,それぞれの考え方を紹介し,症例を通して臨床的なストーリーの考え方を提示する。
心不全の原因精査の心エコー検査で心肥大を認めた場合,圧負荷と病的心肥大,蓄積に大きくわけて考えるとよい。圧負荷の鑑別疾患としては高血圧性心疾患,大動脈弁狭窄症,大動脈縮窄症などがあり,病的心肥大としては肥大型心筋症,蓄積の例としては心アミロイドーシスやファブリー病などの二次性心筋症が挙げられる。
左室壁肥厚がなく,心エコー検査でLVEFが50%未満であった場合,LVEF低下を伴う心不全に分類する。原因の骨格としては虚血性心疾患,不整脈原性心筋症,弁膜症性の心筋症,広義の拡張型心筋症に分類され,いわゆる狭義の拡張型心筋症に類似した二次性の心筋症でないか評価することが重要である。
臨床的には慢性心房細動や弁膜症,徐脈/頻脈や心囊水貯留などが原因となることが多い。まず臨床的な症状が左心不全症状なのか右心不全症状なのか確認し,本当に心不全かどうか吟味することが重要である。
症例1は心肥大を伴う心不全,症例2,4~6はLVEF低下を伴う心不全,症例3はLVEF正常の心不全の症例,合計6症例を提示した。6つの症例を通して,心エコー検査を切り口に病態を考えるプロセスを学ぶ。
すべての患者ならびに疾病には臨床的なストーリーがある。臨床的なストーリーとは,「原因」と「結果」とも言い換えられる。時には致死的経過をたどる肺塞栓症を例にすると,多くの肺塞栓症は下肢の深部静脈血栓症から生じることが多い。これは,下肢の安静から血流が停滞し血栓ができることに起因するが,健常人が下肢の安静だけで肺塞栓症になることは少ない。たとえば下肢の骨折で安静を余儀なくされた場合,「下肢の骨折→下肢の深部静脈血栓症→肺塞栓症」という臨床的なストーリーができあがる。肺塞栓症の標準治療は3カ月間の抗凝固療法であるが,抗凝固療法終了後にしばしば再発する。しかし,この臨床的なストーリーがわかり,下肢の骨折が軽快していれば,再発リスクは高くないことがわかる。このため,すべての診療において臨床的なストーリーを考えることは,治療法を決定する上でも重要である。特に病態が難しい心不全においては,心不全の標準治療に加えて,再発を繰り返さないために心不全の主たる原因を特定し,臨床的なストーリーを意識して,それを解除することは大変重要である。実際には分類が難しい病態やオーバーラップ,希少疾患もあるため,すべての原因を知識として網羅することは難しい。また,描出された疾病が心不全の「原因」でもあり「結果」でもあることがあるため,判断に悩むことも多い。
本稿では,心エコー検査を用いて心不全の「原因」と「結果」に着目して,心不全のストーリーを考えるプロセスを説明し,症例を通して紹介していく。心不全のストーリーを考える上で,心不全の原因と病態の基礎が必要となる。まず心エコー検査から核心にせまるため,心不全の概略と主要な「臨床的分類」を提示した後,「心肥大なのか心拡大なのか」「LVEFが低下しているのか正常なのか」に分類し紹介する(図1)。