ジフテリアは,主にCorynebacterium diphtheriae,もしくはCorynebacterium ulceransによって引き起こされる感染力の強い疾患です。主に,気道から,飛沫や濃厚接触を介してヒト-ヒト感染します。また,皮膚病変や病変からの分泌物を介しての接触感染も起こりえます。すべての年齢層が感染する可能性がありますが,ワクチン接種で予防可能なため,ワクチン接種を受けていない小児が最もハイリスクになります。
潜伏期間は2〜5日間(最大10日間)で,呼吸器ジフテリアと皮膚ジフテリアに大きくわかれます。
呼吸器ジフテリアの主な症状は,発熱と咽頭痛です。重症化すると,細菌が毒素を産生し,喉の奥に灰色や白色の厚い斑点ができます。この斑点が気道を塞ぎ,呼吸や嚥下が困難になり,犬吠様咳嗽を認めることもあります。さらに,頸部のリンパ節が腫脹し,周辺組織に炎症が広がることもあります。
皮膚ジフテリアの場合は,鱗状の発疹や明らかな境界のある潰瘍病変が皮膚に限局します。主な合併症は,心筋炎と神経炎で,呼吸器ジフテリアに起こりやすいと言われています。
主な治療は,ペニシリンやエリスロマイシンなどの抗菌薬です。皮膚ジフテリアの場合は,抗菌薬のみで十分ですが,毒素産生型の呼吸器ジフテリアの場合は,ジフテリア抗毒素が必要になることもあります。抗菌薬終了後,24時間あけて2回の鼻および咽頭のジフテリア菌培養検査による陰性確認も必要です。
呼吸器ジフテリアの場合は,適切な治療を行っても致死率が5〜10%で,ジフテリア抗毒素の入手が困難な環境では,致死率が40%に至ることも報告されています。
毒素を産生しているジフテリアを診断した医師は,感染症法に基づいて直ちに届出が必要です(2類感染症)。日本では1999年以降,報告はありません。
2023年9月5日,ギニア共和国の保健省がジフテリアのアウトブレイクをWHOに報告しました。2023年7月4日から10月13日までに,カンカン地域において538例のジフテリア症例(疑い520例,確定18例)が確認され,確定13例を含む58例が死亡しました(致死率:11%)。1~4歳が445例(83%)を占め,報告された全例がジフテリアを含むワクチンを未接種でした。
ギニアにおけるジフテリアのリスクは,発生地におけるDTP3種混合ワクチン接種率が低いこと(2023年の世帯調査によると接種率は36%),2014〜22年のギニア国内のDTP3種混合ワクチン接種率がWHO/ユニセフの推計によると47%であることから高リスクと考えられ,WHO地域レベルでのリスクは中程度,世界レベルでは低いとされています。
ギニア共和国は,WHO,ベルギーの国境なき医師団(Médecins Sans Frontières:MSF),その他の地域のパートナー機関の支援を受けながら,症例の早期発見・管理,地域社会における意識の向上や,患者やその親への指導など,リスクコミュニケーションと地域社会への関与を深める取り組みなどの公衆衛生対応を行っています。
【文献】
1)国立感染症研究所:ジフテリアとは. (2023年11月12日アクセス)