エキノコックス症は,エキノコックス属による4類感染症である。単包条虫と多包条虫の2種が存在し,わが国では94%が多包条虫によるものである。主に肝臓に寄生し,進行すると肺・脳転移や腹膜播種をきたす。適切な治療が行われなければ致死的な経過をたどる。原則として,外科的切除が唯一の根治的治療である1)。
北海道への渡航歴や非加熱処理の水の摂取歴,キツネやイヌへの接触歴を確認することが重要である。
周辺臓器圧排による諸症状。黄疸や右季肋部痛,食思不振,呼吸困難感など多岐にわたる。
画像診断で石灰化を伴う辺縁不整な囊胞性肝腫瘤。内部は不均一で,しばしば周辺臓器や肝内脈管への浸潤,肝内転移を伴う。ELISA法を用いた免疫血清学的検査が確定診断に有用である。
潜伏期間は数年〜30年ほどにも及ぶ。また,ヒトやペットなどの移動に伴い,北海道以外での感染も増えてきている。そのため,渡航歴・摂取歴・接触歴は重要であるが,必須ではない1)。
超音波検査で本疾患を疑った場合は,肝dynamic CT検査や肝EOB-MRI検査を追加する。追加検査でも本疾患を疑う場合は,免疫血清学的検査を追加する。多包条虫の抗原検査で「陰性」と診断された単包条虫によるエキノコックス症も存在するため注意が必要である。
確定診断がついた場合は,外科的切除が可能かどうか評価する。必要に応じ,切除が対応可能な医療機関に紹介する。自施設での検査や対応が困難な場合は専門家へのコンサルトをためらわない。
完全切除が可能な場合は,外科的切除を行う。その他の治療選択肢として計画的減量手術,内服治療,姑息的治療が続くが,長期予後に関しては明らかに劣る2)。
内服治療として,現在認可されているのはエスカゾールⓇ(アルベンダゾール)のみである。しかしながら,2023年8月現在,新たな治療薬となりうる化学物質の発見が報告されており,今後の治療が進展していくことが期待される3)。
腫瘤生検は原則避けるべきである。生検により,腹膜播種や生検針通過部位への転移をきたす可能性がある。本疾患を疑う場合は,生検よりも免疫血清学的検査を優先すべきである。
妊娠の可能性や挙児希望がある場合,駆虫薬の内服は禁忌である。また,母乳移行性が指摘されており,授乳は原則として避けることが望ましい。
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