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マラリア[私の治療]

No.5205 (2024年01月27日発行) P.43

佐原利典 (東京都立荏原病院感染症内科)

登録日: 2024-01-26

最終更新日: 2024-01-23

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  • マラリアはマラリア原虫を媒介するハマダラカを介して感染し,発熱や頭痛など非特異的な全身症状を引き起こす蚊媒介性疾患である。熱帯熱マラリア,三日熱マラリア,卵形マラリア,四日熱マラリアのほか,世界の一部地域では複数種のサルマラリアのヒトへの感染例が報告されている。いずれの種も重症化することがあるが,熱帯熱マラリアは感染赤血球に生じる特性上,重症化しやすく診断・治療の遅れが致死的である。さらに三日熱マラリア,卵形マラリアは肝臓細胞内で休眠期に入るため,完治していない場合は再発することがある。

    ▶診断のポイント

    発熱など非特異的な症状からマラリアを疑うことが何よりも重要である。潜伏期間は短い場合7日程度,長い場合は30日を超えるため渡航地域のマラリア流行状況と,現地滞在期間から推測される潜伏期間を意識する必要がある。診断の遅れが重症化につながるため,マラリアが鑑別に挙がる場合はためらわず検査を実施する。

    マラリア検査はギムザ染色血液塗抹標本を直接検鏡し原虫感染赤血球の観察を行う。熟練した検査者であれば感染原虫種の特定もある程度可能である。原虫感染赤血球の寄生率は重症度判定項目になっており,治療効果指標でもあるため重要である。マラリア迅速検査キットは検査実施が容易でマラリア感染を高い感度で判定できる。熱帯熱マラリアとその他マラリア種の感染を同時に把握可能な検査キットもあるが,日本ではマラリア症例数が少ないため特定の医療機関以外では常備されていない。熱帯熱マラリア以外のマラリア種の場合,治療選択のため感染種の特定を遺伝子検査で行うこともある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    日本では承認された静注抗マラリア薬がないため,経口抗マラリア薬の使用が基本となる。嘔気などで内服困難な場合や小児例では,時に治療開始時に経口薬での治療が難しいこともある。重症基準を満たした場合,「わが国における熱帯病・寄生虫症の最適な診断治療予防体制の構築(略称:熱帯病治療薬研究班)」薬剤使用機関では研究目的でグルコン酸キニーネ注射薬(QuinimaxR注)の使用が可能となっている。治療開始後は意識障害の評価に加え,低血糖,腎機能など血液検査でフォローしながら原虫寄生率と発熱の推移を観察し,治療効果の評価を行う。QuinimaxR注は不整脈のモニタリングなど慎重な投与を要するため,寄生率低下が確認でき経口摂取可能な状態に回復した時点で使用可能な経口薬へ切り替える。

    また,マラリア流行地域ではマラリア以外の熱帯感染症の重複感染も稀ではなく,渡航地域に合わせた鑑別疾患に注意しながら経過観察する必要がある。重複感染は地域によって鑑別疾患が異なるが,リケッチア症やレプトスピラ症などすぐに診断確定できない疾患が否定できない場合は抗菌薬併用も検討する。

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