フルオロキノロン系抗菌薬は汎用される一方、QT延長に伴う心臓突然死リスク上昇への懸念が指摘されてきた[Liu X, et al. 2017]。しかしアモキシシリンとの比較ではリスクを増加させることはないようだ。デンマーク・コペンハーゲン大学のViktoría Ellenardóttir氏らが28万例を解析した結果として1月12日、BMJグループのOpen Heart誌で報告した。
今回解析対象となったのは、デンマーク在住で心原性と思われる院外心停止(OHCA)を来した4万6578例と対照23万2890例である。OHCA例は全国レジストリから抽出、対照群は一般住民から年齢と性別、観察期間をマッチして抽出した。全体の平均年齢は71歳、66.8%が男性だった。
まずこれら27万9468例をOHCA発生前14日以内(対照群は観察打ち切り直前14日以内)における服用歴をもとに、「フルオロキノロン」群(含・他剤併用)と「アモキシシリン」群(実薬対照)、「両剤非服用」群の3群に分けた(アモキシシリンを対照としたのは、心臓突然死リスクを上昇させないことが大規模観察研究で確認されているためだという[Ray WA, et al. 2004])。
そして「フルオロキノロン」群と「アモキシシリン」群それぞれのOHCAリスクを「両剤非服用」群と比較し、両群間に差があるかを調べた。リスク比較にあたっては、過去10年間に記録されていたCVリスク因子とCV治療薬(含・抗不整脈薬)を補正した。
その結果、OHCA「発生」群におけるフルオロキノロン服用率は0.59%、「非発生」群0.14%だった(服用群におけるリスク増加幅は不明)。一方、アモキシシリン服用率はそれぞれ0.65%と0.15%だった(こちらも増加幅不明)。次にフルオロキノロン群のOHCAリスクをアモキシシリン群と比較した。その結果、有意差は認められなかった。フルオロキノロン群におけるOHCA補正後オッズ比(OR)は0.91(95%CI:0.71-1.16)だった。
この結果は亜集団解析でも同様だった。すなわち、「性別」「65歳の上下」「CV合併症の有無」で分けて比較しても、フルオロキノロン群でORの有意上昇を認めた集団はなかった。
Ellenardóttir氏らは本研究の強みを、「(心原性)突然死」診断の正確性(レジストリデータ。研究者の主観に基づかない)と解析対象数の多さに求めている。なお本研究と異なり、フルオロキノロンによる突然死リスク増加(vs. アモキシシリン)を報告する観察研究も存在する[Assimon MM, et al. 2022]。しかし対象は透析例に限られていた。今回のEllenardóttir氏らの解析における慢性腎臓病患者の割合は、OHCA群の7.04%、対照群の2.09%だった。
英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)からは1月22日、経口・静注・吸引フルオロキノロン使用は他剤不適のケースに限るよう推奨が出された。目的は重篤、あるいは長期遷延有害事象の回避だという。
本研究に対する資金提供はなく、利益相反もないとのことである。なお責任著者のTalip E Eroglu氏には、OHCAの原因を探る多くの観察研究がある。