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【識者の眼】「大規模災害と感染制御②─DICT創設の経緯とその役割」櫻井 滋

No.5208 (2024年02月17日発行) P.63

櫻井 滋 (東八幡平病院危機管理担当顧問、日本環境感染学会災害時感染制御検討委員会 副委員長)

登録日: 2024-02-01

最終更新日: 2024-02-01

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自然災害発災後の感染症流行は稀と認識されてきたにもかかわらず、近年の大規模災害では事後の集団感染症発生が確認されている。

日本環境感染学会(JSIPC)の災害時感染制御支援チーム(Disaster Infection Control Team:DICT、ディー・アイ・シー・ティー)は「避難施設等における感染制御活動を支援するためにJSIPCが主体となって感染制御の実務経験者により編成される職能集団」と定義されている。厚生労働省防災業務計画(2017年)で「地方自治体は大規模自然災害発生時に日本環境感染学会など専門学会への相談の仕組みを整備すべきこと、災害対策本部に感染制御の専門家を配置すべきこと」等が明記されたことを受け、災害時の被災地支援、特に感染制御に関する支援の仕組みの1つとして学会が整備しつつある組織である。

日本においてDMATや赤十字救護班は主に災害時に発生する医療ニーズ(診断、処置、移送)に対応するのが責務である。これに対して感染症関連リスクへの対応は、平時と同様に被災自治体の保健所等の公衆衛生システムが担うことが原則となっている。災害発生前の感染制御活動はいまだに災害対策基本法の支弁対象として位置付けられていないことは、基本的な制度上の課題となっている。しかし、発災後の超急性期には、避難生活や医療ニーズと比較して被災者や被災自治体における未検出段階の感染症リスクに対する危機感は相対的に小さく、新型コロナ感染症が蔓延するまでの近年の災害においても感染症事案が集団発生後に初めて問題化する事例が見られた。

そのため、DICTは学会員間の連絡網を通じ、能動的に情報を収集し、発災早期に支援の必要性を評価し、被災現地医療機関の感染対策チーム(Infection Control Team:ICT)と連携して「避難所等における集団感染症の抑制や制御」を主な目的として支援活動を行うこととしている。

しかしDICTはJSIPCという学術・職能団体の会員により編成される民間組織(専門性をもったボランティア)であることから、保健所等の公的保健衛生システム(DHEATなど)が十分に機能しうる状況においては、そのニーズは通常必ずしも大きくない。一方、東日本大震災(2011年)のように災害の被害と範囲がともに著しく大きく、公的保健衛生システムが崩壊する事案では、被災都道府県等からの要請を受けて、被災現地における感染制御支援を行うこととなる。(続く)

櫻井 滋(東八幡平病院危機管理担当顧問、日本環境感染学会災害時感染制御検討委員会 副委員長)[被災地の感染制御支援]

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