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【識者の眼】「大規模災害と感染制御④─平時の連携システムを被災地で活かす」櫻井 滋

No.5210 (2024年03月02日発行) P.56

櫻井 滋 (東八幡平病院危機管理担当顧問、日本環境感染学会災害時感染制御検討委員会 副委員長)

登録日: 2024-02-15

最終更新日: 2024-02-15

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大規模自然災害の発生に伴う感染制御上の問題について、読者の理解を助けるために3つの視点から述べてみたい。

第一は大規模災害の影響を受ける「被災地の医療機関における感染制御の立場」、第二は「被災地に設置される避難所における感染制御の立場」、そして第三は「被災地外からの支援者の立場」である。これらは被災地において密接かつ複雑に関わりあう。なぜならば、避難所あるいは被災地では、普段の市民生活では比較的稀な感染症が出現し、あるいは持ち込まれ、そして蔓延する可能性を孕んでいるからである。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行中はなおさらその傾向が強い。また、被災地で支援者が感染して持ち帰る感染症は支援者の居住地で蔓延する可能性も無視できない。

さらに被災地における感染症患者の増加は、最終的に被災地域内外(隣接自治体や移送先)の医療機関にとって医療ニーズのサージ(surge=過渡的な過負荷)となる可能性がある。広域の医療機関自体に大きな被害が及ぶ状況では、なおさら影響が懸念される。これが第一の視点である。

そのため、避難施設で集団感染が生じた場合、すべての患者を後方医療機関に移送することは物理的に困難であり、避難施設内での感染制御を迫られる。しかし、避難施設には医療機関のごとき隔離スペースの備えが十分とは言えない。したがって、集団的な生活の中で、可及的手段を用いて感染を抑制する必要に迫られる。これが第二の視点である。

その際には、被災地域外からの医療支援者も、外傷外科的な災害医療の提供のみではなく、感染症患者のケアや感受性者の保護にあたる必要が生じる。このように災害医療の対象とは異なる配慮を要する人々の数を未然に抑制するため、感染制御の専門性をもった予防・感染制御活動を行う存在が必要となる。さらに、これらの活動は、保健所等の行政任せではなく、行政と協力して、地域における平時の医療関連感染制御にかかる連携システムを被災地の感染症マネージメントに活かす方策を考慮しておく必要がある。つまり、第三の視点が重要となる。 

東日本大震災(2011年)、熊本地震(16年)、九州北部豪雨(17年)などでは、避難所等における感染症の流行がしばしば確認され、岩手県におけるいわて感染制御支援チーム(Infection Control Assistance Team of Iwate:ICAT)、熊本県阿蘇地区における阿蘇地区保健医療復興連絡会議(Aso Disaster Recovery Organization:ADRO)のごとく、DICTの先駆けとなる民間活動が行われてきた。

新たに全国に整備されつつあるDICTは、感染制御に関する専門知識を有する集団であるとともに、災害時における感染制御の知識を身につけた集団として被災地での感染制御支援活動を担うことが望まれる。また、その中心となるのは各医療機関のICTを構成する感染管理認定看護師(CNIC)をはじめ医師、薬剤師、検査技師等であり、支援活動の効果はその多様な職種の積極的な協力にかかっている。

日本環境感染学会(JSIPC)は既に学会員からDICT創設メンバーをリストアップしており、登録数は1月26日現在650名を超えている。具体的活動指針となる「DICT活動要綱」は19年8月21日に承認されるとともに、理事会ではJSIPC評議員を原則的にDICTメンバーとして登録することが提案され、了承されている。同年11月27日には、事実上のキックオフミーティングとなった、第1回DICT研修会が東京医療保健大学五反田キャンパスで開催され、これを皮切りにコロナ禍においてさえ毎年研修会が行われてきた。

これらやや性急とも考えられる動きは、わが国に迫る未曾有の自然災害を意識しており、この度の能登半島地震災害ですら、その始まりに過ぎないと、我々は考えている。(続く)

櫻井 滋(東八幡平病院危機管理担当顧問、日本環境感染学会災害時感染制御検討委員会 副委員長)[被災地の感染制御支援]

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