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20年以上ぶりにアルゼンチンで確認された西部ウマ脳炎のヒト感染例［感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー（20）］
●西部ウマ脳炎とは1）
西部ウマ脳炎は，トガウイルス科アルファウイルス属に属する西部ウマ脳炎ウイルスによる感染症です。主に，アルゼンチンから北米に分布し，特に北米（米国・カナダ）ではミシシッピー川より西部に相当する地域，ロッキー山地より西部に相当する地域に分布します。イエカと鳥の間で感染環が維持されており，ウイルスを保有するイエカの刺咬によってウマやヒトへ感染します。
潜伏期間は5〜10日で，頭痛，発熱，情緒不安定，振戦，易興奮性，項部硬直，羞明，時に異常な精神状態などがみられます。脳炎を生じると意識障害，弛緩性／痙性麻痺を認めます。特に乳児では急速な経過をたどり，固縮，痙攣，泉門膨隆などがみられ，生残者の60％以上で脳に障害を残し，進行性の知能発育不全をきたします。年長になるほど回復は早く，通常は5～10日で回復します。臨床検査所見で特異的な所見はありません。
確定診断は，血液あるいは髄液中のPCR法によるウイルス遺伝子の検出，あるいはIgＭ抗体の検出，またはペア血清による中和抗体の上昇の確認です。特異的な治療法はなく，対症療法が中心となります。
予防は，流行地では蚊に刺されないようにすることが大切です。ウマ用のワクチンは開発されていますが，ヒト用のワクチンは実用化されておらず，一般的ではありません。感染症法の4類感染症に分類されており，診断した医師は，直ちに最寄りの保健所に届け出る必要があります。
●20年以上ぶりにアルゼンチンで西部ウマ脳炎のヒトへの感染例が報告2）
2023年12月20日，アルゼンチンはWHOに西部ウマ脳炎のヒト感染例を報告しました。アルゼンチンで最後に報告されたヒト感染例は，1982〜83年のウマの集団感染に伴い発生した症例と，96年のウマでの感染例は検出されずヒト１症例でのみ臨床所見と血清学的所見に基づいて診断された症例で，今回の報告は20年以上ぶりになります。
患者はサンタフェ州の成人で，2023年11月19日に頭痛，筋肉痛，めまい，見当識障害，突然発症した発熱などの症状を呈しました。11月24日，州内の医療機関に入院し，12日間集中治療と人工呼吸を必要としました。
患者の検体は同日に同州の病院で採取され，12月4日に国立感染症研究所（ANLIS Malbrán）に属する国立ヒトウイルス疾患研究所（Dr. Julio I. Maiztegui）に送られ，12月19日，西部ウマ脳炎ウイルスの特異的中和抗体の検出で陽性となりました。幸いにも患者は12月20日に退院し，外来で経過観察中です。疫学調査の情報によると，患者は，以前西部ウマ脳炎感染と判定されたウマが確認された地域の農村部の労働者です。
アルゼンチンでは，2023年11月25日から12月27日の間に，国内の12の州で合計1182件の西部ウマ脳炎の発生がウマで確認されており，患者が発生したサンタフェ州では149例が確認されています。
西部ウマ脳炎は蚊媒介感染症であり，かつ人畜共通感染症であるため，ヒトにおける対策だけでなく，動物や環境も含めた，ワンヘルスの視点での包括的な対策が求められています。
【文献】
1） 厚生労働省:西部ウマ脳炎.（2024年1月28日アクセス）
2） WHO:Western equine encephalitis - Argentina. （2024年1月28日アクセス）
石金正裕 （国立国際医療研究センター病院国際感染症センター／ AMR臨床リファレンスセンター／WHO協力センター）
2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院，聖路加国際病院，国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース（FETP）などを経て，2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来：知っておきたい薬剤耐性（AMR）のはなし」（南山堂）など。
