トキソカラ症はイヌ回虫(Toxocara canis)またはネコ回虫(T. cati)の幼虫包蔵卵や幼虫の経口摂取により生じる寄生虫症である。感染経路は環境中に存在する幼虫包蔵卵の偶発的摂取(汚染された野菜の喫食など)あるいは虫卵を摂取したニワトリやウシなどの動物の筋肉や内臓(レバー)の生食・不完全加熱状態での喫食である。日本ではレバ刺などの食品の喫食を介した感染が中心で,成人,特に中高年の男性に多い傾向がある1)。これらの回虫はヒト体内で成虫にならず,幼虫が血行性に移動し各種臓器に病変を形成する,いわゆる幼虫移行症を生じる。病型は虫体の侵入部位により,肺や肝臓に移行する内臓型,脊髄などの中枢神経に移行する中枢神経型,網膜に移行する眼型に大別される。そのほか,皮膚炎などを呈する病型や無症候型も存在する。
トキソカラはヒト体内で成虫にならないため,糞便検査による虫卵検出はできない。また,生検による組織中の虫体証明もほぼ不可能である。このため,血液検査所見および画像所見と併せて,抗トキソカラ抗体の検出により診断を行う。
典型例では発熱,倦怠感,咳嗽などの症状を認めるが,無症状の症例も見受けられる。血液検査で著明な末梢血好酸球増多およびIgE上昇,画像検査で肺や肝臓に多発する小結節性病変やすりガラス状陰影を認める。病変の移動や新規出現・消失を繰り返す場合は特に本症を疑う根拠となる。これらの所見と併せて血清の抗トキソカラ抗体検査により診断する。
頸髄・胸髄を中心とした脊髄炎を生じ,四肢のしびれや異常感覚などの症状を呈する。画像所見と併せて血清および髄液の抗トキソカラ抗体検査により診断する。末梢血好酸球数およびIgEは上昇することもあるが,基準範囲内の場合もある。
飛蚊症や羞明などの症状を呈する。典型的にはぶどう膜炎による硝子体混濁や網膜の白色隆起性病変がみられる。末梢血好酸球増多やIgE上昇は認めないことが多い。血清抗体が陰性の例も多いため,可能であれば前房水,硝子体液,網膜下液などの局所液における抗トキソカラ抗体検査を行うことが望ましい。
上記のほか,蕁麻疹や好酸球性心筋炎,好酸球性胃腸炎を呈する例があり,虫体の直接侵入というよりも虫体に対するアレルギー反応が原因と考えられている。末梢血好酸球増多および高IgE血症を認め,血清抗トキソカラ抗体は陽性である。
無症状かつ画像検査でも異常を認めないが,著明な末梢血好酸球増多およびIgE上昇があり,血清抗トキソカラ抗体が陽性である。
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