耳介は胎生5~6週頃に,第一および第二鰓弓由来の6個の耳介小丘が複雑に発達・癒合して形成されるが,その癒合不全により先天性耳瘻孔は発生すると考えられている1)。発生頻度は100人に1~2人であり,比較的頻度の高い疾患である。しかし,瘻孔が存在しても無症状の場合は,特に治療の必要はない。一側性のことが多いが,両側性にみられることもある。
先天性耳瘻孔のうち約9割は耳前部の皮膚に瘻孔を認める。その他,耳輪脚基部や後耳輪部など様々な位置に発生する。
感染に伴い瘻孔から膿の排出を認める場合,瘻孔周囲が腫脹し発赤を伴う場合のほか,瘻孔からやや離れた耳前部に膿瘍を形成する場合がある。
先天性耳瘻孔に対しては,保存的治療としての抗菌薬投与と外科的治療があるが,症状を伴わない場合は治療の対象とはならない。瘻孔周囲に腫脹を認め,瘻孔から白色のアテローム様物質が排出される例でも,感染による皮膚の発赤や疼痛を伴わない場合は,通常は治療の適応とはならない。
瘻孔周囲の発赤・腫脹を認める場合は,抗菌薬投与を行う。感染の原因は主にブドウ球菌であり,経口セフェム系抗菌薬などを選択する。抗菌薬投与でも改善が認められない場合は,穿刺あるいは切開排膿を行う。
感染の反復や切開排膿を要する感染を起こした場合は,摘出術の適応となる。瘻管を完全摘出しないと再発するため,感染を制御した後に実施することが望ましい。症例によっては感染の反復により皮下に肉芽が形成され,発赤腫脹が持続することもある。そのような状態で手術を実施せざるをえない場合もあるが,その際は感染部位の皮下の肉芽や,菲薄化し発赤のある皮膚なども合併切除することになる。感染を制御しないまま摘出術を実施しても再発率には差がないという報告2)もあるが,炎症のない状態での手術のほうがきれいな操作ができるため,術前に静注抗菌薬を使用し可能な限り炎症を抑えてから手術,摘出を行っている。また,常時瘻孔から白色のアテローム様物質が排出され,日常生活での不快感や支障を訴えるような場合は手術による摘出も検討する。
原則,症状のない先天性耳瘻孔は治療の対象としていないが,小児の両側先天性耳瘻孔で一側のみ感染を反復している場合は,将来的に対側耳瘻孔でも感染の可能性があるため,症状のない対側の手術も同時に実施することもある。
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