国内では2024年1月1日〜3月21日の間に20例の麻疹患者発生が報告されている1)。一般的に麻疹の集団免疫閾値は92〜94%とされている2)。一方で、麻疹発症を予防するためにはゼラチン粒子凝集(particle agglutination:PA)抗体価で1:128以上が目安とされており、その基準を抗体陽性と定義すると、国内における10〜30歳代の抗体陽性率は70〜80%台にとどまっている3)。
国内で麻疹含有ワクチンが潤沢に流通しているのであれば、免疫を有さない(と想定される)すべての方へ速やかな接種を推奨するべきであるが、実際にはワクチンの国内流通量には限りがある。本稿では、現時点で誰に麻疹含有ワクチンを優先して接種するべきか、私見を述べさせて頂く。
今回の流行において、麻疹含有ワクチンの接種適応年齢外である0歳代の発症が3例(15%)報告されている1)。過去の麻疹流行期において、0歳代へ前倒し任意接種が導入されたこともあるが、0歳での接種は定期接種回数に含まれないため、1歳を超えてから通常通り2回の定期接種が必要となる(合計3回接種となる)ことなども考慮すると、現時点で0歳代への前倒し接種を拡大する意義は限定的であり、1歳を超えた時点で速やかに定期接種を開始することを推奨する。
国内では2006年以降、生後12カ月以上24カ月未満に接種する第1期と5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間に接種する第2期で構成される麻しん風しん混合(MR)ワクチンの2回接種が導入され、その接種率は95%前後が維持されているため、この世代はワクチンによる免疫を獲得していることが期待できる。
2008〜12年度の5年間は当時の中学1年生を対象とした第3期と高校3年生を対象とした第4期がキャッチアップ接種として行なわれたため、20〜30歳未満は母子手帳等の記録で確認し、合計2回の麻疹含有ワクチン接種歴が確認された場合は麻疹に対する免疫を有していることが期待できる。一方で、ワクチン接種歴が確認できない20〜30歳代は、自然感染による免疫も有していない可能性が想定されるため、他の世代と比較して麻疹感染のリスクがやや高いと考える。実際、2024年に国内で発症が確認された20例のうち10例(50%)が20歳代で、ついで4例(20%)が30歳代であった1)。この世代に対する緊急接種の適応は、地域の流行状況、行動範囲、罹患時のリスク、国内のワクチン流通状況などをかかりつけ医と十分協議し、個別に判断する必要がある。
国内で麻疹ワクチンの定期接種が開始されたのは1978年であり、さらに2005年までは多くの場合単回接種であったと推定されるにもかかわらず、40歳代後半以降においては80%以上がPA抗体価で約1:256を維持しており3)、麻疹既往歴による免疫を有していると推定される。そのため、この世代に対する緊急接種の優先度は低い。
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以上より、各世代が麻疹に対する不安を有していることは十分理解できるが、まずは冷静に定期接種第1期、および第2期による小児への接種を優先すべきであると考える。
【文献】
1)国立感染症研究所:感染症発生動向調査(IDWR)2024年第11週.
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001197476.pdf
2)Plotkin SA, et al:Plotkin’s Vaccines. 8th ed. Elsevier, 2024.
3)国立感染症研究所感染症疫学センター:年齢/年齢群別の麻疹抗体保有状況(2022年)感染症流行予測調査.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/11938-measles-yosoku-serum2022.html
勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[抗体陽性率]