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日本における劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の増加[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(22)]

No.5218 (2024年04月27日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2024-04-25

最終更新日: 2024-04-23

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●劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)とは1)2)

溶血性レンサ球菌(いわゆる溶連菌)は,一般的には咽頭炎を引き起こす細菌ですが,稀に引き起こされる重篤な病態として,劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)があります。主なSTSSの病原菌は,A群溶血性レンサ球菌(group A Streptococcus:GAS,Streptococcus pyogenes)です。

一般的には,咽頭痛,発熱,倦怠感(前駆症状)などから始まり,消化管症状(吐き気や嘔吐,下痢)や敗血症症状を引き起こしますが,明らかな前駆症状がない場合もあります。その後,軟部組織病変や,多臓器不全(循環不全,呼吸不全,肝不全や腎不全など)をきたし,発症から24時間以内に多臓器不全が完結する程度の進行を示すことがあるため,「人食いバクテリア」と呼ばれることもあります。

STSSは,感染症法に基づく5類全数把握疾患と定められ,診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることが義務づけられています。届出に必要な要件は,ショック症状に加えて肝不全,腎不全,急性呼吸窮迫症候群,播種性血管内凝固症候群,軟部組織炎,全身性紅斑性発疹,中枢神経症状のうち2つ以上を伴い,かつ通常無菌的な部位(血液など)等からβ溶血を示すレンサ球菌が検出されることです。

●GASによるSTSSの発生動向1)2)

溶連菌咽頭炎は,2023年10月以降,過去10年間で最大規模の流行が起こっていました。STSSも増加傾向で,2023年の届出報告数は過去最多の941人(速報値)でした。2024年も報告数の増加が継続しています。年齢群では,50歳未満を中心として報告数が増加しています。

GASの分類は,病原因子として知られているM蛋白をコードするemm遺伝子配列で行われます。2011年以降,英国でM1型株の中でも,特徴的な27種類の単塩基置換を有するUK系統株の分離頻度が上昇し,世界の多くの地域でUK系統株がM1型株の中で主要となっています。UK系統株は,他のM1型株と比較し,毒素の産生量が約9倍多く,伝播性も高いとされ,注視されています。日本全国のSTSS患者から分離されたGASの菌株解析によると,2018~2023年において,STSS患者から収集されたGAS 760株のうち,M1型株は215株(28.3%)で,うちUK系統株は50株(23.3%)でした。M1型株に占めるUK系統株の割合は,2018年10.0%,2019年24.5%,2020年30.8%,2021年14.3%,2022年100%,2023年46.7%で,増加傾向にあります。

●STSSには飛沫感染と接触感染への対策を

STSSのアウトブレイクの明らかな理由は不明ですが,経年的な増加傾向や,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策緩和以降,様々な呼吸器感染症が増加する状況で,溶連菌咽頭炎の患者数が増加したことも原因のひとつとして考えられています。ワクチンなどはなく,予防は手指衛生や咳エチケット等の基本的な感染症対策となります。

【文献】

1)厚生労働省:劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS).(2024年4月12日アクセス)

2)IASR:A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在). (2024年4月12日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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