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炭疽[私の治療]

No.5220 (2024年05月11日発行) P.41

加來浩器 (防衛医科大学校防衛医学研究センター教授)

登録日: 2024-05-11

最終更新日: 2024-05-07

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  • 炭疽は,芽胞形成性の大型のグラム陽性桿菌である炭疽菌Bacillus anthracisによる急性感染症である。炭疽菌は通常土壌に生息しており,世界各地に高濃度の汚染地域がある。ヒトには,病畜の毛や皮革の加工作業の際に芽胞に接触(皮膚炭疽)したり,吸入(肺炭疽)したりすることで感染する。時に,海外では病畜肉の喫食で発症する腸炭疽や,注射の回し打ちに関連した注入炭疽も報告されている。日本では1994年の2例(宮城県と東京都)の発生以降は報告されていない。2001年に米国で生物テロとして使用されたことがあり,警戒すべき疾患である。感染症法では4類感染症に規定されており,迅速に対応する必要から,疑いの段階で保健所に通報する。

    ▶診断のポイント

    皮膚炭疽は,2~3日の潜伏期の後,かゆみを伴う水疱が形成され,しだいに炭のような黒色の無痛性の皮膚病変(eschar)を形成する。これに2次感染が起こると,化膿,疼痛,発熱,所属リンパ節の腫脹が出現するようになり,やがて全身感染へと移行する。無治療の場合の皮膚炭疽の致死率は5~20%程度と言われている。

    肺炭疽は,1~7日の潜伏期の後,軽度の発熱,から咳,全身倦怠感,筋肉痛等を訴える。数日すると突然の呼吸困難,喘鳴,発汗,チアノーゼ,ショックを呈するようになる。胸部X線では縦隔の拡大が特徴的である。この段階に達すると,通常24時間以内に死亡する。

    腸炭疽は,2~5日の潜伏期の後,悪心,嘔吐,食欲不振により発症,その後発熱,腹痛,吐血,下痢(時に血性下痢)が出現し,チアノーゼ,ショックを呈し死亡する。腸炭疽の致死率は20~60%とされる。腸病変部は回腸下部および盲腸が多い。

    髄膜炭疽は,肺炭疽と腸炭疽に続発することが多い予後不良の病型で,炭疽発症から数日後に意識障害などの髄膜炎症状が出現する。

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