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高血圧性脳症[私の治療]

No.5222 (2024年05月25日発行) P.49

伊藤義彰 (大阪公立大学大学院医学研究科脳神経内科学教授)

登録日: 2024-05-23

最終更新日: 2024-05-21

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  • 高血圧性脳症とは,急激または著しい血圧上昇により脳循環自動調節能が破綻し脳に障害をきたすもので,早期・軽症例で可逆的な段階で治療されるものから,急速に進行し治療にもかかわらず後遺症状を呈する症例や死に至る症例まで重症度の幅が広い。頭痛,視覚障害,進行性の意識障害,全身痙攣などを主症状とする。慢性的な高血圧患者では220/110mmHg以上で,急性の高血圧患者では160/100mmHg以上で発症しやすい1)。高血圧性脳症は高血圧緊急症のひとつであり,早急に血圧管理を行う必要がある。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    悪化する頭痛,悪心・嘔吐,視覚異常,意識障害,全身性痙攣にて発症する。片麻痺,半身のしびれ感,失語,同名半盲といった限局した病巣に特徴的な神経症状(巣症状)は比較的稀で,こうした場合は脳梗塞,脳出血などへの進展を疑う。

    【画像所見】

    頭部MRIのFLAIR画像では,頭頂~後頭葉の白質を中心に皮質に及ぶ高信号域を認め,可逆性後部白質脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome:PRES)と呼ばれる。この部分は交感神経の支配が弱く高血圧に対し脆弱であり,血管原性浮腫を生じると考えられる。浮腫の範囲は,前頭葉,側頭葉下部,小脳に及ぶこともある。同部位はCTでは低吸収域として描出される。初期には症状,画像所見ともに可逆的であるが,進行し脳血管攣縮から虚血症状をきたしたり,脳出血を合併したりすると不可逆的な障害となる。

    高血圧以外にPRESの画像所見を呈する鑑別疾患として,子癇,腎疾患(糸球体腎炎,血栓性血小板減少性紫斑病/溶血性尿毒症症候群,肝腎症候群),免疫抑制薬投与(シクロスポリン,タクロリムス,インターフェロン),高用量副腎皮質ホルモン,細胞障害性薬剤併用療法(シタラビン,シスプラチン,CHOP療法),骨髄移植,輸血,エリスロポエチン投与,術中不安定血圧などが挙げられる。

    【合併疾患,鑑別疾患】

    高血圧性脳症は高血圧緊急症のひとつであり,乳頭浮腫,急性左心不全,大動脈解離,急性冠症候群,急性または進行性の腎不全,褐色細胞腫クリーゼ,子癇などを合併することが多く,緊急の血圧管理に加え,それぞれの病態に応じた治療が必要となる。また頭痛,悪心,視覚異常で発症した椎骨脳底動脈系の虚血病変を鑑別する必要があり,もし脳梗塞であれば,降圧治療は病態を増悪させることがあるので注意する。

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