軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)は,正常と認知症の間にある「宙ぶらりん」の状態である。記憶力をはじめとする認知機能は年齢不相応に低下しているが,日常生活に支障が出ない程度にとどまっている。「忘れっぽい」「言葉が出にくい」「物事の段取りがしにくい」などの様々な症状が出るものの,その症状は比較的軽く,正常範囲ではないが認知症でもない。
必ずしも全例が認知症に移行するわけではなく,1年当たりの軽度認知障害から認知症への移行割合はおよそ5~15%,正常への復帰割合はおよそ16~41%と考えられている。
軽度認知障害と認知症の違いを表1に示す。軽度認知障害の有病率は,65歳以上人口の15~25%と報告されており,稀ではない。厚生労働省の補助金で行われた疫学研究である「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」の報告によると,2012年の日本の65歳以上人口における軽度認知障害の人数は約400万人と推計されている1)。
軽度認知障害は,状態名であって疾患名ではない。認知症と同じく,原因疾患は多数ある。米国精神医学会の診断・統計マニュアルである「DSM-5-TRTM」では,軽度認知障害の診断基準において,以下によるものか特定するよう記載されている(表2)。同じ軽度認知障害であっても,病因によって「アルツハイマー病による軽度認知障害」「前頭側頭型軽度認知障害」「レビー小体病を伴う軽度認知障害」「血管性軽度認知障害」などとわけて呼称される。疾患によって予後や対応法が異なるため,適切な診断と経過観察が重要である。
なお,2023年に発売されたレカネマブ(レケンビⓇ)において承認されている効能または効果は「アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制」である。すなわち,軽度認知障害の全例に適用があるわけではない。承認を受けた診断方法,たとえばアミロイドPET,脳髄液検査,または同等の診断法によりアミロイドβ病理を示唆する所見が確認され,アルツハイマー病と診断されている軽度認知障害および軽度の認知症がレカネマブの適応疾患である。