「こどもの性暴力防止法」が2024年6月19日成立した。本法律は子どもに接する業務を有する事業者に対して、以下の4点を求めるものである。
(1)教員等の研修
(2)児童等との面談や児童等が相談を行いやすくするための措置(相談体制)
(3)児童等への性暴力の発生が疑われる場合の調査、被害児童の保護・支援
(4)性犯罪前科の有無の確認
これらは学校、幼稚園、認可保育所、認定こども園、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援施設、放課後等デイサービス施設などに対して義務化される。一方で民間の教育保育事業者等に対しては任意となり、家庭教師、ベビーシッターなどの個人事業主も含まれない。本法律の附帯決議には、これら個人事業主とともに医療機関についても本法律の対象とするかどうか検討することが盛り込まれている。今後医療機関も本法律の対象となる可能性がある。
今回の法制定において、(4)にある性犯罪歴の確認についてが「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」として注目されている。これは英国の前歴開示および前歴者就業制限機構を参考にしているもので、日本ではこども家庭庁が所管するシステムとなり、事業者が性犯罪歴の有無について、こども家庭庁を通じて犯罪歴を管理する法務省に照会する制度となっている。対象となる犯罪歴は、「特定性犯罪」と呼ばれる不同意性交等罪や児童ポルノ禁止法違反などであり、痴漢や盗撮など市区町村の条例違反も含まれる。禁固刑以上の場合は刑の終了後20年間、罰金刑以下の場合は執行後10年間が対象となる。一方で、不起訴処分となった事例や起訴猶予、懲戒処分となった事例は対象とならず、下着などの窃盗やストーカー行為なども含まれない。必要なガイドラインやシステムを構築し2026年までの制度開始をめざしている。
本法律では日本版DBSが注目されているが、性犯罪で検挙される者のうち約9割は性犯罪の前科はないことから、日本版DBSの整備だけで子どもを性暴力から守ることはできない。むしろ(1)〜(3)にある教育、保育の現場における性暴力の予防や早期発見・対応にむけた仕組みづくりが義務化されたことが非常に重要であると考える。
日本ではまだ、子どもへの性暴力に「気づき」「対応し」「ケアする」仕組みが十分とはいえない。「気づき」「対応し」「ケアする」という流れをバラバラではなく、一体としてとらえ、子どもを1人の権利の主体として、子どもを中心とした仕組みづくりを行っていく必要がある。特に「対応し」「ケアする」という部分について、今回の法整備を機に仕組みづくりが進むことを期待する。
小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[日本版DBS][性虐待][子ども家庭福祉]