子どもの中毒には大きくわけて2種類ある。1つは乳幼児の中毒、もう1つは思春期の過量内服(over dose:OD)である。5歳以下の乳幼児の中毒は主に誤飲が原因で、日本中毒情報センターには年間2万5000件の報告がある。これだけ多いのは、知られていないポイント(盲点)が多いことも一因ではないかと考えている。そこで今回は子どもの中毒について考えてみたい。
乳幼児は好奇心が旺盛で危険回避能力が低い。生後6カ月を過ぎると口の中にモノを入れて確認する探索行動が始まり、誤飲のリスクは急激に高まる。少し遅れて2歳前後になると家族の薬の誤飲が増える。これは大人が薬を飲む様子を見て、自分もやってみたいと真似することがきっかけとなる。子どもの中毒の原因として頻度が高いものは今も昔もタバコだが、最近は高齢化に伴い家族が薬を内服していることも増え、実家に帰省したときに祖父母の薬を飲んでしまうケースもめずらしくない。
子ども特有の中毒もある。たとえば銀杏はメチルピリドキシンがビタミンB6の作用を阻害し、嘔吐やけいれんを引き起こすが、3歳未満で10個以上摂取すると症状が出やすいとされる。1歳未満の乳児ではハチミツによる乳児ボツリヌス症のリスクがよく知られている。最近はジェルボール型洗剤の中毒が注目されている。お菓子に似ているため誤飲しやすいが、洗剤成分が高濃度のため中毒リスクが高い。コロナ禍で身近になった消毒用エタノールは、体格の小さな乳幼児では少量でも急性アルコール中毒を起こすことがある。ウイルス除去製品に含まれる二酸化塩素は、経口摂取するとメトヘモグロビン血症を起こし、頭痛や意識障害を起こす可能性がある。
このように盲点の多い小児の中毒を予防するためには、社会に向けて医療者が適切な情報発信を行い啓発することが大切である。わかりやすい内容で、当事者意識を喚起するような情報提供をしなくてはならない。
当事者意識を喚起する効果的なタイミングは主に2つある。1つは時期や事故の報道に合わせたタイミング、もう1つは誤飲や中毒で保護者が医療機関を受診したタイミングである。日本小児科学会では「子どもの予防可能な傷害と対策」というコンテンツを公開している。こうした資料をぜひ現場でご活用頂ければと思う。
もう1つ、子どもの中毒の情報発信の課題は思春期のODである。近年、薬物乱用の中心はいわゆる危険ドラッグから、風邪薬などの市販薬に移っている。また、その目的は快感を得るためでなく、日々の生活で感じているしんどさに対して、そのつらい気持ちを和らげたいという気持ちから行うことが多い。市販薬に含まれるコデインやデキストロメトルファンなどを内服すると、一時的に気分が落ちついたりぼーっとしたりして不安から解放される効果があるが、あくまで効果は一時的で、また徐々に効かなくなるため、しだいに内服量が増えてODに至る。
こうした問題に関して、マスメディアによる報道はかえって辛さを抱える子どもたちに市販薬という手段があるのだという気づきを与え、ドラッグストアに向かわせてODのきっかけになるのではとの意見もある。しかし実際に子どもたちはテレビなどの情報からというより、SNSやYouTubeなどで体験談を共有して情報を得ている。これらの発信を止めることはできないし、たとえ止めたとしてもおそらく問題は解決しない。解決するためには、どうして彼らがODの情報を検索するのか、その根っこの部分を考える必要がある。
厚生労働省は市販薬の乱用経験のある高校生の背景として、社会的孤立があると報告している。また海外の報告では、自殺行動の保護的要因として、本人と保護者、学校、仲間とのつながりが挙げられている。ODの情報発信においては、センセーショナルな話題提供ではなく、社会がその課題を認識し、つながりを支援できるような内容の発信が重要で、発信の是非ではなく質についての議論が必要だと考えている。
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[誤飲][過量内服][社会的孤立]