在宅医療を日々実践する中で,患者さんやご家族にとっての最善は何か,常に悩むのではないでしょうか? しかし,一見,困難だと思われるケースでも,実は今まで同じようなケースを経験していることも少なくないと思います。もちろん,人の最善は一人ひとり異なるので,パターンで正解が見つかるわけではありませんが,それぞれの事例に行き当たりばったりで対応をするのではなく,これまで経験したケースをパターンとしてとらえ,支援者としてどのように関わるかという自分なりの確固たる方針を持っておけば,困難事例でも自信を持って関わることができ,在宅医療の実践も,質が高まると思います。本連載では,私が経験した,よくある在宅医療での実践事例をパターン化して,わかりやすく提示していきます。
意思決定支援を行う際,本人の意思と家族の意見がまったく異なる場合も,よくあります。今回は,在宅医療で非常によく遭遇する「患者さんとは異なる意見を持つ配偶者がいる場合にどう関わるか」というパターンについてお話ししたいと思います。
78歳のエツコさん(仮名)は,76歳のときに筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症しました。四肢の筋力低下よりも,言葉が出にくくなったり,飲み込みが悪くなったりする症状が先行して進行してきており,吸引をする必要も出てきていました。今後,病状の進行に伴い,胃瘻栄養や気管切開,人工呼吸器装着等,様々な医療処置を行っていくかどうかの話し合いを重ねています。
本人は,延命医療はしたくないと言っていますが,ご主人は1分1秒でも長く生きてほしいと言われており,すべての処置と,人工呼吸器の装着まで望んでいます。何度も今後の病状や選択肢についての説明と話し合いを行い,人工呼吸器を装着して療養されている患者さんのもとに夫婦で見学にも行ってもらいましたが,二人の考えは平行線で変わりません。当院のスタッフからは,「もし呼吸苦で,今,当番で呼ばれたらどのように対応したらいいのか?」と早期の意思決定を望む声も出ていました。