最近、診療をしていて、今まで継続して処方していた消化酵素製剤が出荷調整になったり、挙げ句の果てに販売中止になってしまうことがあり、困っている。その薬剤に問題があったわけではなく、どうも、薬価が低く、製薬会社で採算が取れないために販売中止となってしまったようだ。代替薬と思っても、同じような作用を持つ薬剤すべてが同じような状況で、処方ができなくなってきている。考え方を変えれば、薬価が低く、あまり危険性のない薬剤なので、Over The Counter(OTC)に変更しろということなのかもしれない。
患者さんにOTCを勧めるにあたり、勝手に探してもらうのでは申し訳ないので、自分で試してみることにした。いくつかの種類を試し、自分なりに1番よいと思われるものを選択した。私は今まで消化酵素製剤を服用する習慣はなかったが、これを機に、脂っこいものをたくさん食べたときなどは服用し、重宝している。
患者さんにいざ、OTCを勧めてみたが、患者さんは試すこともせず、まったくの不評であった。錠剤の消化酵素製剤が販売中止になり、散剤を処方したが不評であった患者さんに、OTCの錠剤を勧めたところ、「それなら、散剤でよいです」と言う。おまけに、今後、その散剤がなくなってしまう可能性があるなら多めにほしいとまで言う。また、ほかの患者さんにOTCを勧めたところ、「だったら、なしで我慢します」と言う。私がいろいろ試してみた話をしてもダメであった。それどころか、その年配の患者さんが言うには、「先生、『病は気から』という言葉がありますでしょ。先生が病院で処方してくれた薬だと思うから、効きますし、安心もするのです」と逆にお説教をされてしまった。
正直、その患者さんのリアクションは想定の範囲内であった。だからこそ、自分でいろいろなOTCを試して、勧めたのだが、やはりダメなようである。薬価の問題はもちろん、会社経営や保険の問題など様々な理由があることは理解できる。しかし、この患者さんたちのリアクションからすると、どうも中高年の日本人の精神構造とはマッチしていないのではないかと思う。この患者さんたちは逆に、値段のことはあまり気にしてはいないように思われる。だとしたら、多少、患者さんの負担が大きくなっても、同じ薬剤を継続して処方できるような仕組みはできないのだろうか。患者さんの心の満足は、何にも代えがたい医療なのだから。
野村幸世(星薬科大学医療薬学教授)[出荷調整][販売中止][OTC]