三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)は,手関節尺側の橈骨・尺骨・月状骨・三角骨に囲まれた部位に存在する線維軟骨-靱帯複合体で,手関節尺側の支持性〔特に遠位橈尺関節(DRUJ)の支持性〕,回内外可動域および尺側手根骨-尺骨間の荷重分散・吸収・伝達に機能している1)。
TFCCは三角線維軟骨(TFC),橈尺靱帯,尺骨月状靱帯,尺骨三角靱帯,尺側手根伸筋腱腱鞘床で構成される。
TFCCは外傷性および加齢変性に伴い損傷する。
外傷性損傷は単独もしくは橈骨遠位端骨折に合併して生じることが多い。
変性損傷は,尺骨が橈骨に対して相対的に長い「尺骨plus variance」に伴う尺骨突き上げ症候群に合併することが多い。
手関節尺側部痛(安静時痛,運動痛),回内外可動域制限,DRUJ不安定性を三徴とする。
ドアノブをひねる,タオルを絞る,蛇口をひねる際に誘発痛を生じることが多い。
回内外可動域制限は通常,10~20°程度にとどまることが多い。
重度のDRUJ不安定性では動作の際に手が抜ける感じ(slack)を呈する。
徒手検査では尺屈強制および尺屈回外強制による疼痛誘発検査の陽性率が高い。
DRUJ不安定性検査(Ballottement test)はTFCC損傷の特異度が高い検査である。
画像診断ではMRIと関節造影が有用で,X線ではTFCCを描出できない。
MRIでは脂肪抑制T1強調画像,gradient echo T2*強調画像での描出性が高い。
関節造影では橈骨手根関節およびDRUJに造影剤を注入するdouble injectionを行い,TFCC遠位面および近位面,尺骨小窩の橈尺靱帯付着部の損傷を診断する。
関節造影CTを行うことでより精彩な画像診断が可能になる。
損傷分類ではPalmer分類2)が一般的で,外傷性損傷(Class 1)は部位によって中央部(1A),尺側部(1B),遠位部(1C),橈側部(1D)に,変性損傷(Class 2)は程度によって2A~2Eに分類する。
損傷分類にはほかにAtzei分類,Nakamura分類,Herzberg分類などがある。
治療には保存療法と手術療法がある。
保存療法ではギプス固定やサポーター固定などをおおむね3カ月程度行う。症状が改善しなければ手術療法を考慮する。
手術療法には手関節鏡視下関節包縫合術,手関節鏡視下経尺骨縫合術,直視下縫合術,TFCC再建術,尺骨短縮術があり,それぞれの適応に応じて手術法を選択する。
X線では描出できないので,手関節尺側部痛を訴える場合には最も頻度の高いTFCC損傷を考える。
橈骨遠位端骨折に合併することが多いが,骨折に目が行きがちで,見逃されやすい損傷であることを理解しておく。
DRUJ不安定性の程度によって軽度,中等度,重度にわけることができる。
受傷してからの期間によって新鮮例(受傷後3カ月以内),亜急性例(3~6カ月)および陳旧例(6カ月以降)にわけることができる。
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