先天性難聴は出生1000人に1~2人程度の割合で認められる高頻度の先天性疾患のひとつであり,先天性難聴もしくは小児期発症の難聴の60~70%に遺伝子が関与することが知られている。40歳以上の症例でも20%程度は遺伝性難聴であるとされ,従来,特発性難聴と考えられていたものの一部は遺伝性難聴であり,耳鼻咽喉科領域の日常診療で最も高頻度に経験する遺伝性疾患であると言える1)。
遺伝形式については,常染色体顕性遺伝(優性遺伝)・常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)・X連鎖性遺伝・母系遺伝をきたすものなど多様であり,新生突然変異などの可能性も考慮すると,家系図情報からある程度ターゲットとされる原因遺伝を絞ることはできるが,それのみでの確定診断は困難である。
聴力像についても先天性重度難聴から後天性軽度難聴まで幅広く,難聴の進行性の有無やめまいといった随伴症状も含め多様である。
突発性難聴による一側性難聴やメニエール病様の進行性難聴であっても,経年で対側聴力の低下をきたし最終的に両側同程度の難聴となり,遺伝学的検査の結果,遺伝性難聴と診断される症例も経験することがある。
したがって,難聴患者は発症年齢や遺伝形式・聴力像によらず遺伝性難聴である可能性があるため,難聴患者の診察の際には常に遺伝性難聴である可能性を念頭に置き検査を行うことが何より重要である。
2008年に先天性難聴の遺伝学的検査が保険収載された折,解析対象遺伝子は13遺伝子46バリアントのみであった。その後,比較的高頻度に認められるその他の遺伝子やバリアントへも適用が拡大し,2022年9月からは50遺伝子1135バリアントが解析対象となっている。また,指定難病である若年発症型両側性感音難聴(両側70dB以上の場合に難病申請が可能となる)については,対象となる11遺伝子(ACTG1遺伝子,CDH23遺伝子,COCH遺伝子,KCNQ4遺伝子,TECTA遺伝子,TMPRSS3遺伝子,WFS1遺伝子,EYA4遺伝子,MYO6遺伝子,MYO15A遺伝子,POU4F3遺伝子)の全エクソンおよびスプライシング領域の解析が保険適用となっており,先天性難聴の遺伝学的検査とともに通常診療内での検査実施が可能である。
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