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梅毒感染の既往と治療歴があるが,RPR法,TP抗原法ともに陰性となる事例について

No.5244 (2024年10月26日発行) P.44

谷崎隆太郎 (市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長)

登録日: 2024-10-23

最終更新日: 2024-10-22

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当施設では梅毒の検査をRPR法およびTP抗原法(IC法)で実施しています(定性検査)。最近,数年前に梅毒感染の既往と治療歴があるにもかかわらず,RPR法,TP抗原法ともに陰性となる事例が散発しています。
既往歴や治療歴に関しては受検者本人の申告によるもので,こちらも追及できないので本人の記憶違いもあるかと思うのですが,梅毒治療から数年程度でTP抗原法で陰性となることはあるのでしょうか。あるとしたら,どのような条件で起こりやすいのか,また文献などがあれば併せてご教示下さい。(愛知県 K)


【回答】

【1期梅毒の治療後にRPRとTP検査の両方が陰性化することはありうる】

ご存知の通り,梅毒の血清学的検査には主にトレポネーマ(Treponema pallidum:TP)検査と非TP検査の2種類があります。日本で利用できる非TP検査は基本的にRPR法であるのに対し,TP検査には,動物の赤血球を用いたT. pallidum hemagglutination(TPHA)法やゼラチン粒子を用いたT. pallidum particle agglutination(TPPA)法,ラテックス凝集試薬を用いたT. pallidum latex agglutination(TPLA)法,そしてご質問者が使用されているイムノクロマト(IC)法やfluorescent treponemal antibody-absorption(FTA–ABS)法など,その他にも様々な種類が存在します。近年,わが国ではRPR法の測定方法が倍数稀釈法から自動化法へと変遷してきており,今後,TP検査も自動化法での測定が可能なTPLA法が中心になっていくのかもしれません。

質問に戻ります。適切な梅毒の治療後には,たとえば早期梅毒ではほとんどの場合,治療開始12カ月以内に治療前RPR値の1/4以下に低下し,ほぼ年余を経て陰性化します1)。したがって,過去の梅毒感染の治療歴があればRPRが陰性化することは通常の結果です。しかしその一方で,いったん梅毒に罹患すると,たとえ治療しても,TP検査では通常は生涯にわたって陽性が持続します。

ところが,例外は存在します。古い研究になりますが,1981〜87年までに882人の梅毒患者の血清学的検査をフォローしたコホート研究では,1期梅毒の初期に治療を受けた患者の15~25%で,2~3年後にはTP検査が陰性化したと報告されており2),TP検査が陰性化することはありえます〔ただし,この研究で用いられたTP検査はFTA–ABSまたはMHA–TP(現在は使われていない)という検査でしたので,現代のTPLA法などにも当てはまるかどうかはわかりません〕。

また,CD4陽性リンパ球数が低下したhuman immunodeficiency virus(HIV)感染症を合併しているとTP検査が陰性化することもあるという報告があるので3),梅毒罹患歴があるにもかかわらずTP検査が陰性であれば,HIVスクリーニング検査を行うよいきっかけなのかもしれません。

【文献】

1)Papp JR, et al:MMWR Recomm Rep. 2024;73 (1):1-32.

2)Romanowski B, et al:Ann Intern Med. 1991; 114(12):1005-9.

3)Haas JS, et al:J Infect Dis. 1990;162(4):862-6.

【回答者】

谷崎隆太郎 市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長

WEBコンテンツ「シン・梅毒診療〜早期診断・治療のコツ」

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