【1期梅毒の治療後にRPRとTP検査の両方が陰性化することはありうる】
ご存知の通り,梅毒の血清学的検査には主にトレポネーマ(Treponema pallidum:TP)検査と非TP検査の2種類があります。日本で利用できる非TP検査は基本的にRPR法であるのに対し,TP検査には,動物の赤血球を用いたT. pallidum hemagglutination(TPHA)法やゼラチン粒子を用いたT. pallidum particle agglutination(TPPA)法,ラテックス凝集試薬を用いたT. pallidum latex agglutination(TPLA)法,そしてご質問者が使用されているイムノクロマト(IC)法やfluorescent treponemal antibody-absorption(FTA–ABS)法など,その他にも様々な種類が存在します。近年,わが国ではRPR法の測定方法が倍数稀釈法から自動化法へと変遷してきており,今後,TP検査も自動化法での測定が可能なTPLA法が中心になっていくのかもしれません。
質問に戻ります。適切な梅毒の治療後には,たとえば早期梅毒ではほとんどの場合,治療開始12カ月以内に治療前RPR値の1/4以下に低下し,ほぼ年余を経て陰性化します1)。したがって,過去の梅毒感染の治療歴があればRPRが陰性化することは通常の結果です。しかしその一方で,いったん梅毒に罹患すると,たとえ治療しても,TP検査では通常は生涯にわたって陽性が持続します。
ところが,例外は存在します。古い研究になりますが,1981〜87年までに882人の梅毒患者の血清学的検査をフォローしたコホート研究では,1期梅毒の初期に治療を受けた患者の15~25%で,2~3年後にはTP検査が陰性化したと報告されており2),TP検査が陰性化することはありえます〔ただし,この研究で用いられたTP検査はFTA–ABSまたはMHA–TP(現在は使われていない)という検査でしたので,現代のTPLA法などにも当てはまるかどうかはわかりません〕。
また,CD4陽性リンパ球数が低下したhuman immunodeficiency virus(HIV)感染症を合併しているとTP検査が陰性化することもあるという報告があるので3),梅毒罹患歴があるにもかかわらずTP検査が陰性であれば,HIVスクリーニング検査を行うよいきっかけなのかもしれません。
【文献】
1)Papp JR, et al:MMWR Recomm Rep. 2024;73 (1):1-32.
2)Romanowski B, et al:Ann Intern Med. 1991; 114(12):1005-9.
3)Haas JS, et al:J Infect Dis. 1990;162(4):862-6.
【回答者】
谷崎隆太郎 市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長