腸管出血性大腸菌感染症は,O157のようにベロ毒素を産生する大腸菌による感染症です。ベロ毒素は,腸管出血性大腸菌が産生し菌体外に分泌する毒素で,腸の上皮細胞などに作用し症状を起こすと指摘されています。菌に汚染された食品などを摂取することで感染します(経口感染)。ヒトからヒトへは,患者の便や菌のついたものに触れた後,手洗いを十分にしなかった場合などに感染します。感染すると2~9日ほどの潜伏期を経た後に,激しい腹痛を伴う下痢や血便を認めます。感染しても発症しないこともあり,また軽症のことも多いですが,乳幼児や高齢者は重症化リスクが高いと報告されています。便の培養検査とベロ毒素の検出を行い診断します。注意すべきことに,発症後約5%が溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの合併症を起こすと報告されており,時として死亡することもあります。一般的には,特異的な治療はなく,脱水に対する水分補給や,下痢に対する整腸剤の使用などの対症療法を行います。
感染症法上,三類感染症(全数把握対象)に定められており,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ることが義務づけられています。
2024年10月22日に,マクドナルドに関連して発生した腸管出血性大腸菌感染症に関する米国疾病予防管理センター(CDC)食品安全アラートが報告されました。その時点でのキーポイントは以下になります。
2024年10月16日から10月30日までに,13州から合計90人が発病,27人が入院,1人が死亡しました。CDC,米国食品医薬品局(FDA),米国農務省食品安全検査局(USDA-FSIS)や,複数州の公衆衛生局が調査したところ,アウトブレイクの原因は,クォーターパウンダー・ハンバーガーに添えられたスライスオニオンの可能性が高いことがわかりました。オニオンは回収されたようです。また,オニオンは,レストランなどの外食産業のみに流通し,汚染されたオニオンが食料品店や消費者の手に直接渡った可能性は低いと考えられています。どのような過程でスライスオニオンが腸管出血性大腸菌に汚染されたのか,最終的な報告が気になるところです。
【文献】
1)国立感染症研究所:腸管出血性大腸菌感染症とは. (2024年11月3日アクセス)
2)米国CDC:Severe E. coli outbreak in Mountain West states linked to McDonald's Quarter Pounders; McDonald's removes suspect ingredients temporarily. (2024年11月3日アクセス)
3)米国CDC:E. coli Outbreak Linked to Onions Served at McDonald’s. (2024年11月3日アクセス)
石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)
2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。