非がん疾患患者の緩和ケアは慢性疾患を持つ患者の下降期,臨死期のケアであり,Lynnらが指摘するようにその病の軌跡には疾患別に特徴1)がみられる。心不全などの臓器不全群では急性増悪と改善を繰り返しながら,徐々に機能が低下する軌跡をたどり,死は比較的急に訪れる。一方,認知症・老衰モデルは,ゆるやかにスロープを下るように機能が低下し,高齢者ではこのモデルが約半数を占める。
非がん疾患では,疾患や個人によって機能が低下する部位や臓器,進行の仕方やスピードが異なり,元の病の軌跡そのものが多様である。加えて,標準的な治療やケアがなされたか,延命治療を選択したかによっても異なるため,がんのような共通の予後予測指標は存在しない。
非がん疾患の疾患別予後予測指標では,人工呼吸器を選択しないALSでは%VC,透析などの代替療法を選択しない腎不全ではeGFRのような単一指標が用いられることもあるが,多くは認知症のADEPT(Advanced Dementia Prognostic Tool),COPDのBODEインデックス,CODEXインデックス,心不全のSeattle Heart Failure Model,肝不全のMELD(Model for End-Stage Liver Disease)スコアなど,いくつかの因子を組み合わせた複合的なスコアが用いられる。しかし,これらの疾患別予後予測指標の精度はいずれも高くないため,臨床現場において正確な予後を予測することは困難2)であると結論づけられている。さらに,ほとんどの非がん疾患患者は後期高齢者であり,multimorbidity(多疾患併存状態)である。実際multimorbidityは高齢者死亡の69%に関与し,疾患別予後予測指標を適用できないことがほとんどである。
残り1,607文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する