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【識者の眼】「5年間の連載を振り返って」大野 智

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2025-01-10

最終更新日: 2025-01-10

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ちょうど5年前(2020年1月)、新型コロナウイルス感染症が日本でも騒がれはじめた頃から始まった連載も今回が最後となる。これまでに取り上げた話題を振り返りながら、統合医療・補完代替療法を取り巻く状況の変化や今後の展望や課題について述べたい。

補完代替療法の施術者に対する最高裁判決(No.5030

非科学的な力による難病治療を標榜していた被告人が1型糖尿病の男児に対して「治療」と称して両親にインスリン投与を止めさせるように指示し、衰弱死させた悲惨な事件が2015年に起きた。その被告人に未必の殺意があったと2020年に最高裁にて認められ、殺人罪が成立した。

これまで、補完代替療法に関する裁判で殺人罪が成立した事例はなく、画期的な判断がなされたと筆者は受け止めている。

医学教育における2023年問題(No.5046No.5149

2010年9月の米国の外国人医師卒後教育委員会(ECFMG)による通告、いわゆる“2023年問題”は日本の医学教育界に衝撃を与えた。その後、日本医学教育評価機構(JACME)が世界医学教育連盟(WFME)から国際評価機関としての認証を受け、国際基準をふまえて医学教育プログラムを公正かつ適正に評価することとなった。その評価基準の「教育プログラム」の大項目(領域)に「補完医療との接点を持つこと」(※補完医療には、非正統的、伝統的、代替医療を含む)が、カリキュラムで確実に実施すべき水準のひとつとして挙げられている。

しかし、多くの医学部は、漢方医学を教育することで、この条件をクリアしているようである。今後、本来の趣旨である統合医療・補完代替医療の教育が実施されることを望む。

医師国家試験にサプリメント関連問題が出題(No.5230

サプリメントを利用したいと訴える患者への対応で、誤っているものを選ばせる問題であった。今後、若手の医師においては、補完代替療法を利用したいという患者への対応は適切な形で行われていくものと期待する。

しかしながら、中堅からベテランの医師については、補完代替療法の知識がない上に、対応方法も学んでいないため患者は置き去りにされてしまっている可能性がある。先日も、森永卓郎氏(経済アナリスト)や小倉智昭氏(アナウンサー)などが標準治療以外の施術・療法を受けていたことに対して、SNSで医師が非難の声を挙げているのを見た。このようなときにいつも不思議に思うのだが、誰も主治医の対応の是非にはまったく触れていないことである。見てみないふりをしているのか、医師の仲間意識から言及を避けているのか、医師の無謬性を信じているのか……。

筆者としては、補完代替療法を取り巻く問題点の多くは、極論ではあるが主治医の対応に起因しているものと考えており、今後の最も大きな課題であるととらえている。

最後に、ともすると胡散臭い目でみられがちな統合医療・補完代替療法をテーマに自由に書かせて頂いた日本医事新報社に改めて御礼申し上げます。また、入稿した原稿に的確なコメントを頂いた担当者(永野拓紀子氏、原藤健紀氏)にも深く感謝申し上げます。

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法(61)]

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