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進行性多巣性白質脳症(PML)[私の治療]

No.5257 (2025年01月25日発行) P.40

三須建郎 (東北大学病院脳神経内科講師)

登録日: 2025-01-26

最終更新日: 2025-01-21

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  • 進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML)は稀な中枢神経系感染症であり,原因であるJCウイルス(JCV)は通常は不顕性感染している(成人の約70%)。主に細胞性免疫の低下を契機として大脳白質に広範な脱髄を起こし,致死的な経過をとることも稀ではない。特にHIV感染症による後天性免疫不全や,悪性腫瘍,自己免疫疾患の免疫抑制治療中に起こることが多く注意が必要である。近年は,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)に対する疾患修飾薬(disease modifying drug:DMD)による薬剤関連PMLが注目されている。

    ▶診断のポイント

    【PML】

    HIV感染,血液疾患や悪性腫瘍,自己免疫疾患,臓器移植,MSなどに対する免疫療法中である場合が多く,①慢性~亜急性進行性の神経脱落症状(意識障害や痙攣発作,認知・構音障害,麻痺など),②脳MRIの特徴的画像異常,特にT1低信号(辺縁は高信号の場合あり)・T2高信号,拡散強調画像で辺縁の高信号,ガドリニウム(Gd)で造影されない非浮腫性病変,③脳脊髄液のJCVのPCR陽性,④他疾患の除外が診断上重要である。

    HIVの場合,特にCD4陽性細胞が200/μL以下で起こりやすい。髄液中の炎症所見はないか軽微(多くは25/μL以下)で,髄液蛋白も正常である。髄液圧は通常は上昇しない。JCVのPCRは診断上重要であり,特異度は高いが,感度は血漿では40%以下,髄液では80%程度であるため髄液を用いるべきである。また,髄液でも検出されない場合は,脳生検を行って病理学的に特徴的な脱髄所見や感染細胞を検出し,ウイルス蛋白およびDNAを検出することが肝要である1)

    【PML免疫再構築症候群(PML-IRIS)】

    PML発症後に何らかの誘因で免疫不全状態から回復する過程で,比較的急性に脳炎症状の悪化をきたす状態を指す。HIVであれば抗レトロウイルス療法(antiretroviral therapy:ART)後,MSであればDMDの中断や,DMDの1つであるナタリズマブの除去を目的とした血漿交換療法を行うことで発生しやすい。PMLとは異なり,脳病変は浮腫性で急激かつ広範に拡大し,しばしばGdにて多巣性に造影される特徴があり,JCVを排除する免疫が再構築する過程とはいえ,過剰な免疫応答によって予後が悪化することが知られている。

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