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【識者の眼】「COVID-19レプリコンワクチン〜My unanswered questions(Ⅰ)」西村秀一

西村秀一 (独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長)

登録日: 2025-01-23

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COVID-19のレプリコンワクチン(以下、「レプリコン」)については、反対者と開発側が闘いを繰り広げ、訴訟にまで至っている。前者はウイルスや免疫にあまり詳しくない人たちの思い込みが前面に出ているような……、後者は一応根拠はあって反論しているというような対立に見える。筆者は?……と訊かれれば後者寄りだが、それでもまだ留保があり、本稿はその話である。断っておくが、筆者はmRNAワクチンそのものの「効果」に対して口をはさむつもりはない。今度のパンデミックでは、それなしでは莫大な数の命が失われただろう。レプリコンでの争点はそうした「効果」についてではなく、主に「安全性」についてである。

臨床試験と上市後に大きな問題がなく、さらに動物実験での成績から、開発側は安全性を強調している。だがmRNAワクチンの歴史はまだ3〜4年。特にレプリコンのそれははじまったばかりである。短期的な副反応の問題は、話が複雑になるのでここでは論じない。だが、これを何年も続けていったときに何かが起きるのか何も起きないのかは、今後ずっと先の話である。筆者の留保の正体は、現時点で同ワクチンに関するunanswered questionsである。

レプリコンには体内での長期の遺伝子発現のために、生体のRNaseによるmRNAの消化から免れる工夫がある。よって、いつまでもウイルスのS蛋白質遺伝子が体内に残る懸念が残る(そのため被接種者から周囲へのレプリコンのまき散らし、いわゆるsheddingが起きるという極端な人たちまでいる)。

一方、体内にそう長くは残らないとする側の根拠は、マウスで接種10日目の接種局所から遺伝子が検出されないとのデータである。だが、筆者が知りたいのは局所ではなく全身での分布である。接種後、全身のどこかにわずかでも「残っていない」という保証はない。実は残っている場合に生じる懸念が大事なのだが、それについては後日述べる。

では、懸念の払しょくのために何がやれるか、考えてみた。まず、動物実験において放射性同位元素で標識したワクチンを接種して、接種後の全身での分散の程度を調べる。ど素人の新年早々絵に描いた餅だが、お味はいかがか? 次に間接的ではあるが、被接種者の抗体価の推移の長期にわたる調査もよい。レプリコンのメリットとして接種後得られる抗体価の維持期間が、通常のmRNAワクチンよりずっと長いというのがある。理由としては、発現される抗原の総量が多いためか、期間がずっと長いためのいずれかであろう。抗体価の残存期間が年単位で伸びるようであれば、遺伝子の残存期間が動物実験結果よりずっと長い可能性が示唆される。そこまで長くなければ、たぶん残存の可能性は、少なくとも抗原をつくり続けている可能性は低いと判断される。

こちらは素人の絵に描いた餅ではない、2025年1月1日発、本気の質問である。

西村秀一(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長)[COVID-19][レプリコンワクチン][感染症]

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