▼「出産・育児でキャリアを中断しなければならないのではないか」「仕事と家庭をうまく両立できないのではないか」─。日本医師会が2012年度に行った医学生アンケートの結果を見ると、女子医学生の多くが、既に学生時代からそうした不安を抱えているようだ。「将来、出産・育児のために医師としてのキャリアを中断したり、一時的に仕事の負荷を減らすことがあると思うか」という問いに、女子の8割近くが「とてもそう思う」「まあそう思う」と答えている。一方、男子の約半数は「あまりそう思わない」「そう思わない」と回答。女性が育児をしながら働くことについて、8割以上の女子が肯定的なのに対し、男子では「あまり好ましくない」「好ましくない」という回答が2割弱あることからも、医学生の間でも、「育児は女性が担う」という考え方が根強い状況が窺われる。
▼医師のワークライフバランスの問題は、22日に開かれた医学生・日医役員交流会でも話題になった。5児の母で産婦人科医の吉田穂波氏(国立保健医療科学院)は、「『早く産め、たくさん産め』、この“基本”を知っていたことで自分はすごく楽になった。子育てを先延ばしにして良いことはない。20代のうちに絶対1人目を産もう」と女子医学生を激励。東日本大震災の支援でキーワードとして浮上した“受援力”を身につけ、「人に仕事を任せることを前向きに考えて、自分にしかできない課題に取り組もう」と呼びかけた。これに対し、公的総合病院循環器科のただ1人の術者として、年間150のカテーテル症例をこなす金子伸吾氏(済生会西条病院)は、「自分は今ここでも携帯電話を持っている。(患者急変等で)いつでも病院に呼ばれる覚悟で、男性は頑張ってほしい」と話し、男子医学生にハッパをかけた。
▼同じアラフォー世代ながら、両氏のメッセージは一見まるで相容れない。しかし、「自分らしく」「自分にしかできない仕事」をしているという点は同じ。交流会に参加した医学生にとってはどちらの話も、自分のキャリアやライフプランについて考える良い機会になったのではないか。
▼仕事と家庭の両立に不安を感じる女子医学生にどう応えるか。これから医師になる医学生がそれぞれ希望する道を歩むことができるよう、地域の医療現場で今一度、男性も女性も、出産・育児、介護をしながらでも安心して仕事を続けられる環境や制度づくりに向けた対応が進むことを期待したい。