株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

社会保障費の抑制は避けられないのか [お茶の水だより]

No.4743 (2015年03月21日発行) P.12

登録日: 2015-03-21

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

▼「社会保障と経済は相互作用の関係にあり、老後に不安を持つ国民に安心を示すことは、経済成長を取り戻すための出発点」。経済財政諮問会議や財政制度等審議会財政制度分科会で医療費の給付費抑制を求める意見が出たことを受け、日本医師会の横倉義武会長は11日の記者会見でこう強調した。国の財政再建策として、社会保障費の抑制を軸とする方針は自民党からも出ているが、こうした考えに対し横倉会長は、経済成長による財政再建を実現するためにはむしろ、社会保障費に財源を充当させることが重要であると訴えた形だ。
▼財政赤字を抱える国家にとって、社会保障費抑制策は避けられないのだろうか─。この問題を検証した一冊が昨秋出版された。オックスフォード大とスタンフォード大の2人の研究者が英医学誌「ランセット」などの学術誌に発表した論文をまとめた『経済政策で人は死ぬか?─公衆衛生学から見た不況対策』(草思社)は、不況下における諸外国の経済政策と医療統計を比較・分析。経済政策が国民の死亡や疾病動向を左右することを明らかにした。
▼ギリシャとアイスランドの例は象徴的だ。2008年のリーマンショックに端を発する世界同時不況の中で、ギリシャは国際通貨基金(IMF)に救済を要請し、その条件となった社会保障費を含む緊縮策を断行。その結果、自殺率が上昇し、HIV感染急増や約40年ぶりのマラリア感染発生という事態を招き、債務も増え続けた。
▼一方、アイスランドもIMFから資金を借り入れたものの、社会保障制度は堅持。医療費はむしろ増額した。その結果、医療統計の悪化は見られず、経済回復も達成。後にIMFは「歳出削減は福祉を損なわないように配慮し、歳入増加は富裕層への増税を柱とすることで、福祉国家の根幹を守りながら財政再建を両立させた」と評価したという。こうした実態を踏まえ本書は、「ある種の緊縮政策は人命を奪う」と結論。社会保障制度の維持が健康維持のみならず、経済を押し上げる力となることを強調した。
▼今夏に政府は、2020年度の基礎的財政収支の黒字化を目指し、新たな財政再建計画を策定する。今後、財政再建策を巡る議論が本格化するだろう。その際、社会保障を軽視した再建策は避けなければならない。社会保障に配慮のない再建策は、結果的に財政再建の足かせとなり、国民の健康リスクになることを、諸外国の経験は教えてくれている。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top