▼先月、日本救急医学会総会で開かれた「高齢者の救急医療は適正に行われているか」と題するシンポジウム。フロアの参加者が「80歳、90歳、100歳の高齢者が連日救急搬送されてきて、本当に治療すべきなのか悩み毎日苦しい」と悲痛な思いを訴えた。
▼総務省消防庁によると、全国の救急出動件数は年々増加しており、2013年の救急車による搬送人員は534万117人(対前年比1.7%増)で過去最多を更新。この半数(54.3%)を高齢者が占めている。
▼シンポの中で指摘された検討課題の1つが、救急医療の階層化だ。「高齢者の自立不能期間が延びている。ADL低下、脆弱性が進行した高齢者に侵襲性が高い治療を控えるのは、尊厳の観点からみても、医学的に適切な判断ではないか」。心肺停止状態などの高齢者の救急医療も、癌医療のようにエビデンスに基づき、積極的治療をしないという選択肢も持つべきではないかという問題提起だ。
▼「地域包括ケア」に期待する声も上がった。救急搬送された高齢者の多くは終末期医療の治療方針を決めておらず、今後は、その代弁者となる血縁者が不在の高齢者が増加すると予測。「高齢者が自分自身で治療方針を決めるには、国が推進する『地域包括ケア』の中で、かかりつけ医やケアマネジャーなど多職種の協力体制が欠かせない」との指摘がなされた。
▼人口の高齢化で今後も高齢者の救急搬送が増加することが見込まれる。そうした社会情勢の中で、救急医の苦悩を軽減し、何より高齢者の尊厳を守るためには、現場の救急医とかかりつけ医が顔の見える関係を構築するなど、高齢者医療に関わる関係職種が日頃から交流を重ね、医学的判断や死生観を踏まえた、その人らしい終末期医療を模索する重要性が高まることは間違いないのだろう。