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障害肝に対する経皮経肝的門脈 塞栓術の適応・指標と限界

No.4747 (2015年04月18日発行) P.58

久保正二 (大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵外科学病院教授)

登録日: 2015-04-18

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

アルコール性肝障害が基礎の肝左葉内側区域S4浸潤を伴った外側区域S3を占拠する巨大肝外発育型肝細胞癌の症例。CT体積比で右葉863cm3,S2は643cm3,左葉切除の肝実質残存率57%,残存肝ICG-K 0.066/分と不良なため,複雑で肝切離面積が広範ですが,S2温存S3,4切除を行いました。
経皮経肝的門脈塞栓術(percutaneous trans-hepatic portal vein embolization:PTPE)を行った上での左葉切除が簡便ですが,このような線維化を伴う障害肝例に対するPTPEの有効塞栓範囲や肝再生が期待できる指標,適応などについて,大阪市立大学・久保正二先生のご教示をお願いします。
【質問者】
末永昌宏:あいち肝胆膵ホスピタル院長

【A】

PTPEは,門脈血流が遮断された塞栓肝葉の萎縮と代償により非塞栓肝葉の再生を惹起させることによって,肝実質切除率を低下させる結果,肝切除適応の拡大や安全性の拡大を図るものです。その際,塞栓肝体積が小さい場合,非塞栓肝体積の増加が小さいことがわかっています。一般的に正常肝では残肝体積が40%,障害肝では50%より少ない場合,術後肝不全を回避するためPTPEが考慮されます。したがって,右葉切除以上(肝実質切除率が50%を超える)の大量肝切除が考慮される症例が対象となります。
PTPEは非塞栓肝葉の肝再生を利用するため,肝再生能力に依存することとなります。肝門部胆管癌や転移性肝癌では黄疸や化学療法の影響がみられることがあるものの,基本的には正常肝であるため,通常,十分な肝再生能力を保持しています。しかし,慢性肝障害を伴う症例では肝再生能力が損なわれていることが多く,PTPE施行にあたってあらかじめその有効性を推定する必要が生じます。
これまでの慢性肝障害併存例におけるPTPEの効果と肝組織や門脈圧との関係の検討から,非癌部肝組織での肝炎活動性や肝線維化が強い場合,PTPEによっても肝再生が惹起されず,PTPEの効果が期待できないことが明らかとなっています。さらに,門脈右一次分枝(右葉)に対するPTPE後,門脈圧が30cm水柱を超える場合,非塞栓肝葉(左葉)の機能は亢進せず,肝切除後肝不全が発症する可能性が高いことが判明しています。
しかし,これらは肝組織の病理学的検討や門脈圧の測定が必要となり,PTPE前にそれらの情報を得ることは困難です。そこで,肝線維化や肝炎活動性を反映する血清肝線維化マーカーである4型コラーゲン7sドメイン(4型コラーゲン,基準値5ng/mL以下)を門脈右一次塞栓症例で測定したところ,4型コラーゲンが8ng/mLを超える場合,非塞栓肝葉(左葉)の体積は増加せず,PTPEの効果が期待できないことがわかりました。
したがって,右葉切除予定症例で,障害肝においては肝実質切除率が50%を超える場合,PTPEが考慮されるものの,肝線維化や肝炎活動性が高い症例,具体的には4型コラーゲンが8ng/mLを超える症例ではPTPEの効果が期待できないため,術式や治療法の再検討が必要となると考えられます。

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