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腎交感神経除神経術の課題と将来性

No.4758 (2015年07月04日発行) P.62

森本 聡 (東京女子医科大学高血圧・内分泌内科准教授)

登録日: 2015-07-04

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

腎交感神経系は高血圧の成因に重要な役割を担っていると考えられ,治療抵抗性高血圧の治療法として,腎交感神経除神経術(renal denervation:RDN)は大いに期待されます。これまでにSymplicity HTN-1とHTN-2という臨床研究では,RDNの安全性と有効性が認められました。しかしながら,米国で施行された偽手術を対照群にしたSymplicity HTN-3研究では治療有効性が認められませんでした。
HTN-1とHTN-2で示された有効性がHTN-3で認められなかったのはどうしてでしょうか。本治療法の現実的な課題と将来性について,どのように考えればよいか,東京女子医科大学・森本 聡先生のご教示をお願いします。
【質問者】
阿部倫明:東北大学病院総合地域医療教育支援部准教授

【A】

近年,カテーテルを用いたRDNが開発され,治療抵抗性高血圧患者に対する臨床試験が行われるようになりました。
最初に行われたSymplicity HTN-1試験においては,RDN施行1カ月後で診察室収縮期血圧が約20mmHg低下し,その後も降圧効果は3年後でも持続していることが報告されました。RDNを行わない対照群を設けた比較対照試験であるSymplicity HTN-2試験においても,血圧は30mmHg程度低下し,降圧の程度は対照群よりも有意に大でした。しかし,その後行われたSymplicity HTN-3試験では,RDN群と(腎動脈へのカテーテルの挿入は行うが通電は行わない)偽処置群の2群間での比較が行われましたが,降圧の程度は両群間で有意差はみられませんでした。
HTN-3試験において降圧に有意差がみられなかった理由については,いくつかの点が指摘されています。
まずHTN-3試験では,24時間自由行動下血圧(ambulatory blood pressure:ABP)の平均値が135/85mmHg未満である,すなわち白衣高血圧の症例が除外されていました。HTN-1試験およびHTN-2試験においてもABP低下は約10mmHgにとどまっていたため,HTN-3試験では患者選定の段階においてRDNによる降圧効果が出にくくなっていた可能性が考えられます。偽処置群では手技6カ月後において約12mmHgの降圧がみられたこと,すなわちプラセボ効果による降圧が大きかったことも要因と考えられます。
また,364例の患者に対し87の施設で111名の術者によりRDNが行われており,術者1名当たりの経験症例数が少ないため,手技が適切に行われていない,すなわちRDNが十分に行われていない症例が多く含まれていた可能性も否定しきれません。スクリーニング期間が2週間と短かったため,直前の降圧薬の変更などが影響していた可能性も考えられます。対象患者の26%を占めていた黒人患者を除外して行ったサブ解析,あるいは65歳未満の患者のみで行ったサブ解析では,RDN群のほうが偽処置群より降圧が有意に強いということも確認されているため,患者背景の違いが結果に影響している可能性も考えられます。
いずれにせよHTN-3試験の結果から,RDNによる降圧効果に疑問符が付されることとなり,現在,わが国を含む複数の国において,RDNに関する臨床試験が中断されているのが現状です。しかしHTN-3試験には,上記のように,いくつかの点が結果に影響を及ぼした可能性があり,現時点では,まだRDNの有効性が否定されたとは言えないと考えられます。今後は,RDNの適切な適応・施行条件に関する検討や,より効率性の高いデバイスの開発が進み,RDNの有効性に関する再評価が進められることが期待されます。

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