【Q】
小児の股関節疾患の鑑別には超音波検査が有用と思います。先天性股関節脱臼をはじめ,股関節痛を有する疾患の鑑別診断・治療における超音波検査のポイントについて,大阪医科大学・藤原憲太先生のご教示をお願いします。
【質問者】
中島祐子 広島大学病院整形外科診療講師
【A】
小児期の股関節疾患に対する様々な画像診断の中で超音波検査が有用である主な理由は,(1)X線像では確認できない軟骨構造体が明瞭に描出できること,(2)鎮静処置が不要で,繰り返し検査できること,です。特に乳幼児期の股関節では,骨化核出現以前の大腿骨頭は,すべて軟骨であることから,形態や位置の把握には超音波検査がとりわけ有用です。
日本での先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全)のスクリーニングへの超音波検査の応用は,いまだ一部の地域や病院単位であり,オーストリア,ドイツ,スイスのように出生した赤ちゃん全例に超音波検査を行うシステムは確立されていません。
米国やカナダは超音波による全例スクリーニングには懐疑的な立場を取っていますが,軟骨に富む乳幼児への画像によるスクリーニングには超音波が最も優れていることは論を俟ちません。また昨今の超音波機器の進歩により,得られる画像も非常に精細になってきています(図1)。
日本では,1980年代後半より股関節の側方から股関節を長軸走査するGraf法1)と,前方から短軸走査する鈴木法が行われています。
Graf法は,超音波画像をⅠ~Ⅳ型(細分類あり)に分類しており,スクリーニングに適しています。分類表を一見すると煩雑に思われがちですが,慣れればその後の治療方針までが明確になる超音波検査法です。Graf法に関しては日本整形外科超音波学会が主催するセミナーが年2回開催されています。
鈴木法2)は,装具治療や牽引療法を行っている場合の股関節の状態把握に利点が多い方法です。
超音波検査が有用な他の小児期の股関節疾患には,股関節内の関節液が多くなり跛行や痛みで来院する単純性股関節炎があります。超音波による前方からの長軸走査により,関節に液体が貯留していることが容易に観察できます(図2)。
この単純性股関節炎と鑑別すべき疾患としては,ペルテス病の滑膜炎期,化膿性股関節炎などが挙げられます。この2つの疾患の超音波像は単純性股関節炎のそれと似ており,画像所見だけでは鑑別はできません。
ペルテス病の滑膜炎期には,液体が貯留した状態が遷延することが知られています。超音波を用いて経過を観察し,2週間を超えて関節液貯留が持続する場合は,ペルテス病の疑いがあり,精査または経過観察する必要があります3)。また,化膿性股関節炎を疑った場合は,血液検査などの傍証を収集することも重要ですが,これも超音波を利用し,超音波ガイド下の股関節穿刺により,関節液の採取が確定診断に至る決定打となります。
今後も股関節だけでなく,小児整形外科領域における超音波検査の利用が期待されています。
1)Graf R:Arch Orthop Trauma Surg. 1980;97(2): 117-33.
2)Suzuki S:J Bone Joint Surg Br. 1993;75(3): 483-7.
3)朝貝芳美, 他:日小児整外会誌. 1994;4(1):116-21.