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補聴器による耳鳴の音響療法が有効な場合

No.4771 (2015年10月03日発行) P.61

新田清一 (済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長)

登録日: 2015-10-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

テレビ放送以来,補聴器による耳鳴治療を希望して受診する患者さんが増えました。補聴器による耳鳴治療の適応,特に聴力レベルやピッチ・マッチ検査との関係について,済生会宇都宮病院・新田清一先生にご教示お願いします。
【質問者】
重野浩一郎:重野耳鼻咽喉科めまい・難聴クリニック 院長

【A】

補聴器による音響療法がテレビ放送で紹介されてから,当科にも「補聴器で耳鳴りを治してほしい」という訴えで受診する患者さんが急増しています。全国の耳鼻咽喉科で同様のことが起こっていると想像されます。しかし,そのように受診する患者さんのすべてが補聴器による音響療法の適応とはなりません。以下に,補聴器による音響療法について,どのような患者さんが良い適応なのかを中心にお答えいたします。
まずは,簡単に治療方法について紹介します。この治療は,耳鳴の詳しい説明(カウンセリング)と補聴器フィッティングの2つの柱からなります。説明の内容は,(1)器質的疾患の有無,(2)耳鳴発生のメカニズム,(3)耳鳴悪化のメカニズム,(4)治療とその意味,(5)経過・予後,です。補聴器フィッティングでは,通常3カ月間かけて,頻回に補聴器調整(基本は週1回)を行います。
適応については,(1)患者さんの耳鳴による心理的苦痛・生活障害度,(2)聴力レベル,の2つの点から検討します。
まず心理的苦痛・生活障害度は,簡単に言うと耳鳴によりどの程度困っているか,つまり「困っている程度」のことです。耳鳴によって困ることとは,「病気の心配」「不安」「いらいら・怒り」「抑うつ」「集中力低下」「睡眠障害」「社会生活困難」などです。当科ではすべての耳鳴患者さんに対し,まず耳鳴の詳しい説明を行いますが,説明を聞いた時点で「困っていること」が解決されることも多く,その場合は適応になりません。説明を聞いてもさらに「困っていること」をなんとかしたいという症例,かつ補聴器フィッティングに3カ月頻回に通院する意志のある症例が適応になります。
もう1つの聴力レベルの適応については,補聴器が対応できる周波数(250~4000Hz程度)で軽度以上の難聴がある場合は,適応と考えています。この場合,ピッチ・マッチ検査で得た耳鳴の周波数に難聴があることを確認します。ピッチ・マッチ検査の結果と難聴のある周波数が一致しない症例でも,補聴器で難聴のある周波数に音を入れると,ほとんどの症例で耳鳴の軽減を自覚するため,ピッチ・マッチ検査の結果は参考程度としています。
検査上で難聴があり,さらに難聴による不自由があれば良い適応です。しかし聴力検査で難聴があっても不自由を自覚しない,もしくは難聴さえ自覚しない症例も少なくありません。このような症例でも補聴器で耳鳴が改善することも多いので,治療の希望があれば3カ月間補聴器フィッティングを施行の上,継続するか否かを検討します。
よって,補聴器による音響療法の良い適応は,耳鳴で困っており,かつそれを改善したい意志がある症例,さらに難聴による不自由を自覚している症例です。「耳鳴りのせいで聞きづらくて困っている」という症例は,非常に良い適応です。

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