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重症の円形脱毛症への対応

No.4775 (2015年10月31日発行) P.63

大山 学 (杏林大学大学院医学研究科皮膚科学教授)

登録日: 2015-10-31

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

重症の円形脱毛症の患者さんを診た際,どのようにマネジメントをするのが最善か,いつも悩んでいます。
(1) 皮膚生検は行うべきでしょうか(私は本症に対しては行ったことがありませんが)。
(2) 血液検査をどこまで行うのがよいでしょうか。抗核抗体,甲状腺ホルモン・抗体,梅毒反応をルーチンで検査していますが,全例に行うべきでしょうか。
(3) ステロイドパルス療法を行うべきでしょうか。日本皮膚科学会「円形脱毛症診療ガイドライン2010」(日皮会誌120巻9号)では発症6カ月以内の急速に進行する症例においてステロイドパルス療法が推奨されていますが,合併症や年齢から治療に支障がないと判断される症例には積極的に行うべきでしょうか。
以上,杏林大学・大山 学先生のご教示をお願いします。
【質問者】
乃村俊史:北海道大学病院皮膚科

【A】

(1)皮膚生検が必要な場合
円形脱毛症は成長期毛の毛球部周囲を標的とする炎症とそれによる脱毛を特徴とする疾患です。本症はほとんどの場合,境界明瞭な脱毛斑といった特徴的な臨床像と,抜毛テストで毛根部が破壊された毛髪が採取されること,ダーモスコピーで漸減毛(根元にいくに従い細くなる毛)が確認されることなどの所見により診断可能です。
生検が必要になるのは,脱毛のパターンが,びまん性であるなど非典型的であったり,頭部白癬,トリコチロマニアなどとの鑑別が困難などの理由で診断を確定したい場合や,炎症の程度を把握し,治療の選択の判断をする必要がある場合に限られます。脱毛症の生検は通常の皮膚生検法では得られる情報が少なく不十分であり,サンプルを水平断する特殊な方法をとる必要があります。
以上から,生検は必ずしも必要ではありませんが,有用なこともあると言えます。しかし,施術,所見の解釈にはある程度の経験が必要と言えましょう。
(2)血液検査の項目
教科書的には円形脱毛症と甲状腺疾患,膠原病などの合併が知られていますが,実際に検査で異常がみつかる症例の数は限られています。また,数値的にやや異常だとしても,内科などに依頼すると「経過観察でよい」との返事をもらうことも多く,そうした症例でも円形脱毛症の治療に反応しますので,ご質問にあるような項目をルーチンに検査するべきかどうかに関して結論するのは難しいと言えます。
再発を繰り返す,あるいは罹患面積が広いなどの症例では積極的な検査を勧めますが,初発かつ小型で単発型の症例などでは,患者さんの希望も聞きながら症例ごとに適応を考えるのがよいでしょう。
(3)ステロイドパルス療法の適応
点滴静注ステロイドパルス療法は急性期の重症型円形脱毛症の治療法として注目を集めています。私も実施していますが,病態を考慮して日本皮膚科学会のガイドラインと比較して,導入の時期に関して若干厳しめの適応基準を用いています。というのも,パルス療法の主たる効果が抗炎症作用と考えて病理組織学的に検討すると,円形脱毛症に特徴的とされる毛包周囲性の炎症性細胞浸潤は発症後1~2カ月の早期にみられなくなってしまうことが多いからです。
また,ガイドラインでは肉眼的な脱毛面積が主たる基準の1つに挙げられていますが,実際にこの基準を満たす状態となるまでには時間がかかり,治療のプライムタイムを逃してしまう可能性があります。
したがって,できるだけ病初期(あるいは再発し急性増悪の初期)で,肉眼的脱毛範囲にかかわらず,抜毛テスト,ダーモスコピーなどで今後広範囲の脱毛が予想される症例に対しては積極的に行ってよい治療であると考えます。ただし,急性に増悪するびまん性円形脱毛症の中には,ほぼ無治療でも良好な経過をたどる症例がありますので,これらを除外するよう留意しなくてはなりません。

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