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最新の人工聴覚器の特徴と適応【高音急墜型感音難聴や高音漸傾型感音難聴の場合はEASが適応】

No.4795 (2016年03月19日発行) P.60

岩崎 聡 (国際医療福祉大学三田病院耳鼻咽喉科教授)

登録日: 2016-03-19

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

耳鼻咽喉科では新しい人工聴覚器が次々と登場してきています。最近では埋め込み型骨導補聴器(bone-anchored hearing aid:BAHA)や残存聴力活用型人工内耳(electric acoustic stimulation:EAS)が保険収載され,bonebridgeやVibrant Soundbridge(VSB)など新しい人工聴覚器も開発されています。これら最新の人工聴覚器の特徴と適応について,国際医療福祉大学・岩崎 聡先生のご教示をお願いします。
【質問者】
西村忠己:奈良県立医科大学耳鼻咽喉科学内講師

【A】

人工聴覚器は既存の手術方法では聴力の改善が望めず,さらに補聴器が装用できないか,もしくは効果が低い場合に適応となります。現在は,様々な難聴に対する人工聴覚器が存在します。内耳の疾患により生じる感音難聴に対しては,人工内耳,EAS,人工中耳があり,外耳・中耳の疾患により生じる伝音・混合性難聴に対しては人工中耳,骨導インプラントがあります。
両側の重度感音難聴(90dB以上)には人工内耳が適応となり,既に保険適用されています。適応となる年齢は1歳(体重8kg以上)以降で,上限の規定はありません。早期に人工内耳手術を行うほうが言語発達は良好であることから,より低年齢化・両耳人工内耳の傾向にあります。人工内耳は基本的に全周波数において高度感音難聴の人が対象になりますが,高音部が80dB以上の高度感音難聴であるものの低音部は60dB以内の軽度から中等度の感音難聴,いわゆる高音急墜型感音難聴や高音漸傾型感音難聴の場合はEASが適応となります。このレベルの感音難聴はこれまで人工内耳の適応ではありませんでしたが,補聴器を使用しても十分な補聴効果が得られませんでした。EASは低音部を音響刺激で,高音部は電気刺激で聞き取る人工聴覚器であり,2014年7月に保険収載されました。海外では,突発性難聴などによる一側高度感音難聴に対する人工内耳手術によって,音源定位と雑音下の聞き取り改善が認められ,わが国でも臨床研究が始まっています。
人工中耳は耳小骨連鎖(キヌタ骨)を直接駆動させることで聞き取りを改善させるものです。適応は両側中・高度高音漸傾型感音難聴となりますが,わが国ではまだ実施されていません。外耳・中耳疾患による伝音・混合性難聴に対しては,人工中耳や骨導インプラントがわが国で実施されはじめています。中耳疾患で耳小骨連鎖が消失または固着している場合や,外耳道が閉鎖している場合に,蝸牛の正円窓に振動子を埋め込み,内耳に直接音声振動エネルギーを伝達する人工中耳がVSBRです。わが国における臨床治験は2014年1月に終了し,現在,薬事承認申請中です。鼓室形成術あるいはアブミ骨手術などの治療で聴力改善が不十分な症例や,外耳奇形(外耳道閉鎖症など)で従来の骨導補聴器の装用が困難あるいは補聴効果が不十分で,満足が得られていない症例が適応となります。
骨導インプラントは音声情報を骨振動として側頭部の骨を直接振動し,中耳を介さず蝸牛に伝播し,聞き取る方法です。手術で中耳を触らないため,聴力悪化のリスクが低く,手術手技が容易である点が人工中耳に比べ有利ですが,出力が弱いという欠点もあります。わが国ではBAHAが2013年に保険収載されました。今後,様々なタイプの骨導インプラントがわが国でも導入される予定です。このように,様々なタイプの人工聴覚器が使用されはじめているので,難聴でお困りの方はこの分野の専門の医師に相談されたらよいかと思います。

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