【Q】
膵癌は難治性癌の代表的なもので,診断時には既に多くが切除不能例です。化学療法が最近進歩してきましたが,いまだに予後不良な疾患です。膵癌は早期発見が困難であると以前から言われてきましたが,最近早期発見に向けていろいろな試みがなされていると伺っています。膵癌を早期に発見するために我々が念頭に置くべきことについて,JA尾道総合病院・花田敬士先生のご教示をお願いします。
【質問者】
五十嵐久人:五十嵐内科副院長/下関市立市民病院内科
【A】
膵癌は予後不良であり,2014年の国内推計死亡者数は男女合計で約4万人に迫り,なお増加しています。一方,2012年の日本膵臓学会膵癌登録の成績では,腫瘍径1cm以下の症例の場合,5年生存率は約80%であり(文献1),長期予後の改善には早期診断が必須とされています。
尾道市医師会では,2007年から当院を含む中核病院と地域連携施設の協働で,「尾道市医師会膵癌早期診断プロジェクト」を展開しています。その実際は,中核病院の専門医から連携施設の先生方に,膵癌診療ガイドライン(文献2)に記載されている「危険因子」を啓発することです。危険因子を複数以上有する症例には,積極的に連携施設で腹部超音波(ultrasonography:US)を施行して頂き,軽微な膵管拡張,膵嚢胞性病変を発見した際は無症状でも一度は中核病院へ膵精査目的の紹介を行う,という取り組みを粘り強く継続しています。
精査に関しては,従来の腹部CTに加え,外来でも安全に施行可能でかつ分解能に優れた超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS),および造影剤を用いなくても膵管造影が可能なMR胆管膵管造影(magnetic resonance cholangiopancreatography:MRCP)を異常所見や患者の身体状況に応じて行う体制としました。その結果,経過観察となった場合は,USの施行,CEA,CA19-9などの腫瘍マーカーを含む採血を原則として地域連携施設で,腹部CT,EUS,MRCPなどを中核病院で分担して行う体制としています。
その結果,2007年1月から2014年6月末までの期間,膵癌疑いの症例が6475例受診(うち3785例は連携施設からの紹介),精査の結果,399例を膵癌と確定診断し,うち超早期発見に該当するStage 0(上皮内癌)を16例診断することができました(文献3)。また,外科切除率の向上も認められ,厳密な予後追跡調査の結果から,5年生存率は早期診断プロジェクト導入後の2007年症例では16.2%,2008年症例では20%と,広島県全体の5年生存率8.5%を大きく上回る結果となりました。地域医療連携を生かした早期診断は,膵癌の予後改善につながることが示唆されています。
尾道市と同様の取り組みは,国内のいくつかの地域でも始まっており,今後国内の各地域に広がっていくことを期待しています。
1) Egawa S, et al:Pancreas. 2012;41(7):985-92.
2) 日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会, 編:科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2013年版. 金原出版, 2013.
3) Hanada K, et al:J Gastroenterol. 2015;50(2):147-54.