【Q】
2年前から帯状疱疹後神経痛(右肋間神経)に罹患している80歳代中頃の男性。よろめいて机の脚に右肩をぶつけ打撲,その後,上腕部内転時に肩から上腕にかけて放散する疼痛がある。特に夜間に強く睡眠が妨げられるという。
骨に異常はないが不用意に右上肢を上げると急に激しい刺激性疼痛を感じる。このことから本例を,いわゆる五十肩(肩関節周囲炎)と診断した。
(1)特に夜間に痛くなる理由。
(2)肩関節腔内にステロイドを注射すると一時的に痛みは改善する。局所的,全身的副作用を考慮すると何回くらいまで接種可能か。
(3)肩関節の運動の開始時期と,そのほかの治療法として局所麻酔,鎮痛薬内服以外で日常考えられる良い方策があれば。
(4)五十肩は何年くらいで自然治癒するか。その理由も。 (東京都 N)
【A】
これまで五十肩と言われてきた症状は,一般の人が使う五十肩と診断名の五十肩とで意味が異なることから,混乱を防ぐために,病名としては凍結肩が使われるようになってきている。
夜間に痛みが増す理由はいくつか考えられる。夜間は日中のような音や光の刺激がなくなるため,体内に痛みがあると,昼間よりも強く感じるという一般的な傾向がある。夜,歯痛で眠れないなども同様である。
また,ヒトの体温は夜間に低下する。体温が下がると痛みに対して敏感になる性質がある。たとえば,久しぶりに運動した後に筋肉痛が出るが,湯船に入って温めると嘘のように楽になることを経験する。これも同じ現象である。夜間,特に午前2~5時頃に基礎体温が最も低くなるので,それに伴って痛みをより強く感じるようになるのである。さらに,肩関節は日中,腕の重さで下に引っ張られている(これを懸垂関節と言い,膝や足のように体重を受ける荷重関節とは異なる)が,夜に横になると腕による懸垂が働かなくなり,相対的に上に突き上げられるようになることも,夜間痛の原因の1つと考えられている。
ステロイドは強力な消炎効果を持つ薬物であり,凍結肩やそのほかの有痛性肩関節疾患(腱板断裂,石灰性腱炎など)によく使われる。
ステロイド注射の回数には厳密な規定はないが,副作用として全身的には血圧上昇作用,血糖上昇作用,免疫力低下などがあり,局所的には腱や軟骨の劣化が報告されているので,必要最小限にとどめるべきである。患者の病態や反応によって使い方が変わるが,凍結肩の場合には,1回の注射で効果が数週持続することが多いので,数週間隔で3~4回使うことが多い。ただし,効きの悪い場合にはもっと短い間隔で使うこともある。1~2回使って十分な効果が得られない場合には,むやみに注射を繰り返すのではなく,別な病態を考える必要がある。
凍結肩は,痛みの強い炎症期,肩関節の動きが制限される凍結期,徐々に回復する解凍期,にわけられる。初期の炎症期には,肩を動かすことでかえって痛みを増大させてしまうため,運動はせずに,むしろ三角巾などで肩の安静をとることをお勧めする。その後,徐々に痛みが取れると同時に肩の動きが悪くなってくる(凍結期)。この時期になったら運動を開始する。たとえば,手首に重りをつけて,前屈みの姿勢で体を前後・左右に動かすことで,力を抜いた腕が振り子のように前後・左右に振れる。また自分で届く高さまで手を上げてその位置で何かにつかまったまま体を沈めることで腕の上がりをよくする運動もある。
いずれにしても,整形外科で指導を受けた運動を毎日繰り返すことが大切である。無理をせずに,痛みが出る手前で止めるようにする。肩の運動をすることで帯状疱疹部に痛みが出るようであれば,痛みの出る運動は控える。
「五十肩」という言葉は江戸時代から使われている俗語で,当時の記載では「自然に治る」と書かれている。また,そのように信じている人も多いと思われる。しかし,実際に調べてみると,治癒までに1~4年を要し完全に回復するのは4割弱にすぎないという報告(文献1),7年経過しても半数には痛みや動きの制限が残っていたという報告(文献2)などがあり,これまで考えられていたよりも治癒までの経過は長く,完全に治らない人もいることがわかる。治療を積極的に行うことで,この病悩期間を短縮することが可能である。
特に動きが悪くなった状態が続く場合には,麻酔下で,腕に外から力を加えて肩の動きを獲得する方法(授動術)や関節の固まった組織を切離する方法(鏡視下関節包切離術)がある。関節包(関節を包んでいる袋)に炎症と線維化が起こることはわかっているが,なぜ起こるのかはまだわかっていない。
1) Reeves B:Scand J Rheumatol. 1975;4(4):193-6.
2) Shaffer B, et al:J Bone Joint Surg Am. 1992; 74(5):738-46.