【Q】
特定疾患(主にパーキンソン病や多発性硬化症)の患者が,あん摩やはりの治療院での施術の同意書を持ってくることがあります。当院の事務側からは,「同意すると病院の受診料が保険適用されなくなるかもしれない」と言われますが,患者は「治療院の先生によると,そのようなことはない」と言います。
実際のところ,何か問題は起こりうるでしょうか。 (福岡県 S)
【A】
わが国の医療保険では,保険医が患者に,はり,きゅう,あん摩など,自分の専門外の施術をすることに同意し,保険者が適応を認めた場合は,療養費払い給付がなされています。原則として3カ月が限度であり,さらに施術を希望する場合は,改めて医師の同意が必要です。患者は一時立て替え払いをして,定められた施術料金から医療保険の一部負担金を差し引いた額が支給されます。したがって,保険医があん摩やはりの治療院での施術に同意をしたからといって,病院の受診料が保険適用されなくなることはないと思われます。
なお,保険医療機関が算定する診療報酬として,あん摩・マッサージ,はりおよびきゅうの施術に係る同意書または診断書を交付したときの「療養費同意書交付料」(交付の都度100点)があります。ただし,保険医が同意したからといって,必ずしも保険者が患者に療養費払い給付を行うとは限りません。保険者は療養費の支給基準(文献1)によって,療養費の適応を判断するからです。また,はり,きゅうの施術とあん摩マッサージ指圧師の施術とでは,適応が異なることに注意が必要です。
はり,きゅうの施術は,神経痛,リウマチ,腰痛症,五十肩,頸腕症候群などによる慢性的な疼痛に認められています。従来の医療手段ではその効果が期待できず,医療に代えてこれらの施術を行うことが適当であると医師が判断した場合は,療養費の支給対象として支給してよいことになっています(文献1)。
また,神経痛やリウマチなどと同一範疇と認められる疾患や変形性膝関節症を含む関節症は多くの保険者が支給を認めているようですが,これらの疾患に関しては保険者において個別に判断することになっています。したがって,痛みを伴わない特定疾患では,支給されないこともあると思われます。
あん摩マッサージ指圧師の施術においては,療養費の支給対象となるのは,医療上必要があって行われたと認められるマッサージです。このマッサージの適応は,筋麻痺・関節拘縮などであって,医療上マッサージを必要とする症例について支給されています(文献1)。すなわち,筋麻痺,片麻痺などの麻痺の緩和措置,あるいは,関節拘縮や筋萎縮によって制限されている関節可動域の拡大と筋力増強を促し,症状の改善を目的とする場合に認められています(文献1)。そのため,脳血管障害などの麻痺による半身麻痺,半身不随,骨折,骨・関節手術後の関節運動機能障害についてはおおむね承認されています。また,神経痛や痛風も適応となる場合もあるようです。したがって,麻痺を伴う特定疾患においては,適応となる場合が多いと思われます。
療養費に関しては,医師が同意をして施術を受けても,保険者が必要性を認めない場合は,療養費が支給されないことがあることを認識しておきたいところです。
文献】
1) 社会保険研究所:療養費の支給基準. 平成26年度版. 2014.