【Q】
咽頭痛を主訴に受診し,溶連菌迅速検査で陽性であったため,アモキシシリンを10日間処方したところ,投与8~9日後に全身の発疹を認めた症例を立て続けに3例経験しました。
発疹は溶連菌感染症の初期に認められるような細かい点状様ではなく,やや大きめで,一部は紅斑であり,掻痒感は認めませんでした。また発疹以外に問題になる所見も認めませんでした。多形滲出性紅斑や薬疹も考慮しましたが,薬疹にしては服用後に時間が経ち過ぎていると思われ,また多形滲出性紅斑の際にみられる,いわゆる標的状病変は認めませんでした。いずれの症例も,無治療のまま4~5日後に自然消失しました。30年近く小児科をしていますが,このような症例は初めて経験しました。
そこで,以下についてご教示下さい。
(1) 溶連菌感染後約10日経過して,中毒疹のような溶連菌に関連した発疹を認めることはありますか。もしあるとすれば,どのような機序で起こりますか。
(2) 上記例への対処法。 (埼玉県 I)
【A】
溶連菌感染に伴う発疹(文献1,2)は,菌が産生する発熱毒素(発赤毒素)であるstreptococcal pyrogenic exotoxin(SPE)-AやSPE-Cが関与しています。これらは細菌性スーパー抗原であり,特定のVβ領域を持つT細胞レセプターとMHC(major histocompatibility complex) classⅡ分子を結合することでT細胞を活性化し,炎症性サイトカインを産生させます。A群溶連菌が感染局所で増殖し,産生された毒素が血流により全身に運ばれ,皮膚に発疹を生じさせると認識されています。
通常,発疹は第2病日頃に出現し,次第に淡紅色の紅斑がびまん性紅斑となり,猩紅熱様の経過をとります。一方,最近では典型的な猩紅熱様の発疹は少なく,淡紅色の紅斑性丘疹が一過性に出現するものが多くあります。また,発疹の生成機序として,過去にA群溶連菌の菌体成分に感作されている個体における,菌体成分に対する遅延型皮膚反応の関与も指摘されています。
A群溶連菌感染症に対する抗菌薬療法として,アンピシリンの10日間投与は標準的な治療法(文献3)ですが,経過中に遅発性発疹がみられることが報告(文献4)されています。発疹は治療開始後約10日で出現し,全例でアモキシシリンが投与されていました。さらに,溶連菌による咽頭炎患児にアモキシシリンを投与し,発疹の出現を検討した前向き研究(文献5)では,発疹がみられた症例の約1/4は抗菌薬投与終了後に出現していました。アモキシシリン投与群とセフェム系薬投与群で,発疹の出現率は同様でしたが,アモキシシリン投与群では,より多彩な発疹が観察されました。
(1)ご質問の症例は,上記の遅発性発疹に類する病変と考えられ,発疹に関するアモキシシリンの関与が推察されます。感染症が契機となり,薬剤アレルギーとしての薬疹を発症することが認識されています(文献6)。ほとんどの薬疹は,T細胞が関与する免疫反応です。皮疹はT細胞が薬剤に関して感作されるのに必要とされる7~14日(平均9日)の期間を経て出現しますが,発症までの期間が極端に短い場合や,薬剤誘発性過敏症候群のように発症まで数カ月を要する場合があります。表皮障害の程度は,反応するCD8陽性T細胞数や機能に関連します。アモキシシリンによる薬疹の病態においても,薬剤反応性T細胞の機能が臨床像に反映されるものと理解されています(文献7)。
(2)これまでの報告では,重症の経過をとった症例は見当たらず,抗ヒスタミン薬内服,ステロイド・抗ヒスタミン外用薬の投与で軽快しています。
1) 田島 剛:日常診療に役立つ小児感染症マニュアル2012. 日本小児感染症学会, 編. 東京医学社, 2012, p3-12.
2) 西 順一郎:小児内科. 2010;42(1):145-8.
3) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会:小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011. 尾内一信, 他, 監. 協和企画, 2011, p16-9.
4) 加藤惠理, 他:日小児会誌. 2014;118(5):838.
5) 幸道直樹:外来小児. 2011;14(4):498.
6) 藤山幹子:医のあゆみ. 2011;238(7-8):779-82.
7) 橋爪秀夫:J Environ Dermatol Cutan Allergol. 2010;4(2):67-75.