【Q】
携帯音楽プレーヤーなどで大音量の音楽を聴き続けると難聴になるようですが,大音量の出る金管楽器(トランペット,ホルンなど)の演奏者は難聴になりやすいということはないのでしょうか。楽器演奏者の難聴の治療の特徴についてもご解説下さい。 (東京都 F)
【A】
内耳の聴細胞は,ある程度以上の強大音の振動によって障害を受けます。射撃音,爆発音など短時間で起こるものを音響外傷,工場や工事での騒音,ロックコンサートやクラブなどで大音量に長時間さらされて生じたものを騒音性難聴と呼びます。
難聴をきたす危険な騒音の音圧レベルは,85
dB以上です。曝露時間にもよりますが,85dBで10%の人が,90dB以上で21%の人が難聴になる可能性があります。参考までに,静かな会話は40dB,普通の話し声は60dB,怒鳴り声は80dB,耳元での叫び声は100dB,ジェット機の騒音は近距離で120dBです。
ちなみに,論文ではありませんが,ネット上に実際のオーケストラ会場の最前列中央座席でハンディーオーディオアナライザー「PAA3R」を用いてベートーヴェン作曲の交響曲第5番「運命」第1楽章の音圧を測定した音楽愛好家による報告(文献1)がありました。これによれば最大音圧レベルは106.7
dBであったということです。したがって,長期間大音量に曝露されている演奏者,特に大音量の金管楽器を担当するホーンセクションや,それらの前にいる木管楽器や弦楽器奏者にも騒音性難聴を生じる可能性があります(図1)。
プロのロック演奏者で耳鳴り,難聴に加えて,ドラムやベースなど低音の音によるめまいを訴える人がいます。この場合には,蝸牛だけではなく前庭(内耳の中で平衡機能を担当する部分)も障害されている可能性があります。また実際に,フルート,ピッコロや竜笛(横笛)奏者では,音が発生する右側の耳に,高音域の騒音性難聴が起きやすいことを経験しています。
最近では,ご指摘のように,携帯音楽プレーヤーによる難聴が問題となっており,青少年の12%に騒音性難聴の可能性があると指摘されています。特にインナーイヤー型イヤホンは音漏れしにくく,最近は曲のランダム化ができるので,飽きずに長時間聴き続け,難聴を生じる危険が増しています。
治療法は,音響外傷の急性期であれば,突発性難聴の治療に準じて,ステロイド,ビタミンB12 ,アデノシン三リン酸(ATP)製剤の投与を行い,有効な場合があります。ただし,発症後長期間経過した例や慢性的な騒音性難聴例には残念ながら効果は期待できず,耳鳴りを感じた段階での専門医受診と自己予防が最重要です。
最近は,大音量を裸耳で直接聴かずに,耳栓型のイヤホン(一見,補聴器のように見えます)を装用して,必要な音だけをモニタリングしながら演奏しているロックやジャズの演奏家をよく見かけます。
1) コンサートの音はどんな音!【音圧レベル, 周波数特性】.
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