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自動車のフロントガラスの割れ方はどのようになっている?【現在は破片が飛び散りにくい合わせガラスが使われている】

No.4783 (2015年12月26日発行) P.66

上部隆男 (東京都立産業技術研究センター 環境技術グループ副主任研究員)

登録日: 2015-12-26

最終更新日: 2016-12-14

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【Q】

自動車のフロントガラスなどは強度を保ちつつ,かつ,けがを防ぐために割れた際に粉々になると聞きますが,具体的にはどうなのでしょうか。 (兵庫県 K)

【A】

自動車の窓に使用するガラスには,安全性の視点から,「視界の確保」と事故発生時の「乗員や歩行者の保護」が求められています。日本工業規格(JIS)では,自動車用安全ガラスを「合わせガラス」,「強化ガラス」,「部分強化ガラス」,「有機ガラス及びガラス-プラスチック」と定義(文献1)しています。このうち,一般の自動車によく使われている「合わせガラス」と「強化ガラス」について,解説いたします。
「合わせガラス」は,プラスチックを中間膜として2枚以上の板ガラスを接着したものです。外力の作用で破損しても,丈夫な中間膜によって支えられ,破片の大部分は飛び散りません。このため,ガラスの大きく鋭利な破片が身体に刺さったり,事故時の衝撃で乗員がガラス窓を突き破って車外に放り出されたりすることはありません(乗員が車外に放り出されることによる二次災害を防ぐことができます)。また,破損時の亀裂が,次に解説する「強化ガラス」のように全面に走ることはないので,視界を大きく遮ることはありません。
一方,「強化ガラス」は,板ガラスを熱処理して,ガラスの表面に強い圧縮応力層をつくり,強度を通常のガラスに比べて3~4倍ほど増加させたものです。通常,ガラスは引張応力で表面から破壊しますので,表面に圧縮応力層があるとその分だけ強くなります。
強化ガラス断面の残留応力分布を図1 (文献2)に示します。表面には,肉厚の1/5程度の厚さの圧縮応力層があります。これが強化ガラスの強度を上げています。一方,断面の中央部には強い引張応力層があり,キズが引張応力層に達すると,この引張応力により,ガラス全体が一気に破壊します。これが,強化ガラスが破損時に粉々になる理由です。一瞬のうちに亀裂が全面に走り,視界が遮られることは問題ですが,反面,破片が5mm角程度の細片となり,致命的なけがを起こす可能性は低いので,「強化ガラス=安全ガラス」とも言われています。
昭和60(1985)年の法改正により,フロントガラスには「合わせガラス」を使うことが義務づけられましたが,それ以前には「強化ガラス」や「部分強化ガラス」が使われていました(文献3)。そのため,今でも「フロントガラス=強化ガラス」という認識をお持ちの方が多いようですが,現在のフロントガラスは「合わせガラス」になっており,「強化ガラス」は使われていません。
なお,フロントガラス以外の窓には,「強化ガラス」を使うのが一般的ですが,一部の高級車では「合わせガラス」が使われています。また,「強化ガラス」は自動車の窓だけでなく,建物のガラスドアやガラステーブル,ガラスの鍋蓋など,多方面で使われています。

【文献】


1) 日本規格協会:自動車用安全ガラス(JIS R 3211).
[http://kikakurui.com/r3/R3211-1998-01.html]
2) 上部隆男:TIRI News. 2006;6:4-5.
[http://www.iri-tokyo.jp/joho/kohoshi/tiri/backnumber/200606.html]
3) 大庭和哉:旭硝子研究報告. 2007;57:31-6.
[https://www.agc.com/rd/library/2007/57-07.pdf]

【参考】

▼ 三嶋康玄:ガラスの事典. 作花済夫, 編. 朝倉書店, 1985, p74-7.

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