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埋伏歯(親知らず)抜歯の合併症は? ドライソケットとは?【抜歯後の治癒過程で障害を受け,血餅が形成されずに歯槽骨が露出する病態】

No.4792 (2016年02月27日発行) P.61

高野伸夫 (東京歯科大学市川総合病院 口腔がんセンター長)

登録日: 2016-02-27

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

以下についてご教示下さい。
(1)埋伏歯の抜歯時・抜歯後の一般的な合
併症と,上顎・下顎特有の合併症を。
(2) ドライソケットの病態について。日本語訳では何と呼ばれていますか。
(3) 上顎・下顎の海綿骨・皮質骨などの骨質との関係。
(4)ドライソケットの治療法は。 (兵庫県 K)

【A】

埋伏歯とは,形成の完了した歯が萌出時期を過ぎても歯肉下や顎骨内にとどまり,萌出しないものを言います。萌出すべき歯冠部が完全に歯肉下や顎骨内に存在するものを完全埋伏歯,歯冠の一部だけが萌出しているものを半埋伏歯あるいは不完全埋伏歯と言います。最も埋伏しやすい歯は上下顎の智歯です。
(1)抜歯時・抜歯後の合併症
埋伏歯自体に病変がみられるような場合,あるいは,この埋伏歯が周囲組織や隣在歯に障害を与えるような場合には,抜歯が必要となります。
抜歯時の合併症としては,埋伏歯に近接する歯の損傷や脱臼,埋伏歯周囲の歯槽骨の骨折や軟組織外傷,埋伏歯の一部残留,エアータービン使用による気腫などが挙げられます。解剖学的特徴により上顎では上顎洞への穿孔,埋伏歯の上顎洞内迷入,下顎では下歯槽動静脈あるいは下歯槽神経の損傷,埋伏歯の口底組織への迷入,顎関節の脱臼などがみられることがあります。
また,抜歯後にみられる合併症としては出血,疼痛,感染などが挙げられます。これらの抜歯後の合併症も決して少ないものではありません。
(2)ドライソケットの病態
まず,術後の合併症の中の抜歯後疼痛症,ドライソケットについて簡単に解説したいと思います。これは,1890年にCrawfordによって発表されたもので,病態に忠実ではありませんが,いまだにこの名称が世界で広く使用されています。同義語に歯槽骨炎,限局性骨炎,フィブリン溶解性歯槽炎,疼痛性乾燥歯槽炎などがあります。
通常,抜歯窩は抜歯後に血餅期,肉芽組織期,仮骨期,治癒期(成熟期)を経て,正常な治癒に向かいます。ドライソケットは,この治癒経過のうち,最初の過程である血餅期に障害を受けることで生じます。以前は,血管収縮薬を含む局所麻酔薬の使用過多や過度の含嗽が原因と言われてきました。
しかし,それも多少関与するかもしれませんが,現在では骨の硬化があり,血流が十分でない抜歯窩や過度の掻爬洗浄を行った抜歯窩に出現しやすく,抜歯時の大きな侵襲と急性炎症,それに加えて抜歯後の感染が加わることにより,局所の線溶現象が亢進し,抜歯窩に血餅が生成されずに抜歯窩壁の歯槽骨が露出した状態になったものと解釈されています。
(3)ドライソケットと上顎・下顎骨との関係
ドライソケットは上顎と下顎では,圧倒的に下顎に多くみられます。特に埋伏した下顎智歯抜歯後に出現することが多いようです。これは上顎と下顎の骨質に差があり,骨皮質が菲薄で,比較的骨内の血流が良い上顎骨に対し,骨構造が長管骨に類似し,皮筋質の厚い下顎骨の血流が関係しているものと想像されます。
(4)ドライソケットの治療法
対処法は,微温生理食塩水や非刺激性の消毒液で抜歯窩を洗浄した後,鎮痛・鎮静作用のある軟膏や抗菌薬含有軟膏を抜歯窩に挿入するのが一般的です。
しかし,口腔内であるため薬剤の停滞性が乏しく,この脱落を防ぐためにサージカルパックや保護床を利用すると,より効果的と考えられます。再掻爬はあまり勧められません。

【参考】

▼ 伊藤亜希, 他:歯界展望. 2001;97(5):995-1002.
▼ Vezeau PJ, et al:J Oral Maxillofac Surg. 2000;58(5):531-7.
▼ 高野伸夫:日歯評論. 2000;688:116-24.

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