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高齢者における滲出性中耳炎の治療法選択

No.4734 (2015年01月17日発行) P.62

松原 篤 (弘前大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科学教授)

登録日: 2015-01-17

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

高齢化社会を反映し,年輩の滲出性中耳炎患者が増加している印象があり,難治性の好酸球性中耳炎例も経験します。一般的な高齢者の滲出性中耳炎は鼓膜穿刺で排液後,マクロライド薬やカルボシステインなどで加療し,好酸球性中耳炎が疑われる例はステロイド薬の鼓室内注入や内服を行いますが,繰り返す例も多くあります。鼓膜換気チューブ留置術のタイミングなど,治療法をどう選択し,対応するかについて,弘前大学・松原 篤先生のご教示をお願いします。
【質問者】
岡野光博:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学准教授

【A】

高齢者の場合は,種々の原因により鼓膜に滲出液が貯留するので,病因の検索が重要です。それにより,鼓膜換気チューブの挿入や,抗アレルギー薬の内服,ステロイド薬の鼓室内注入,ステロイド薬および免疫抑制薬の内服などの治療法を選択します。
気管支喘息の合併がなく骨導閾値の上昇もないようであれば,まずカルボシステインなどの内服で治療を開始します。数週間の治療で改善がなければ,鼓膜を切開し貯留液の性状を確認します。漿液性であれば耳管機能低下を考えて鼓膜換気チューブを挿入します。チューブ挿入により聴力が回復し,鼓室の状態も改善するようであれば,定期的にチューブの状況を観察します。
気管支喘息の合併がある症例や,鼓膜を切開した際に貯留液の性状が粘稠なニカワ状である場合は,好酸球性中耳炎を疑います。このような場合,貯留液のホルマリン固定標本またはスメア標本を作成して,好酸球の有無を確認します。局所治療としては,ヘパリンで耳浴しニカワ状の貯留液を除去した後にステロイド薬(トリアムシノロンなど)を鼓室内に注入します。以前は,鼓膜換気チューブを挿入していましたが,最近では,治療後の穿孔残存を避けるために,なるべく鼓膜換気チューブは挿入しないようにしています。
貯留液の好酸球浸潤が確認できれば,好酸球性中耳炎として抗ロイコトリエン薬,PDE(phosphodiesterase)阻害薬(イブジラスト)を投与し,効果が少なければ第2世代抗ヒスタミン薬で好酸球抑制効果のあるもの(レボセチリジンなど)を追加投与します。鼓室内の貯留液を反復するようであれば,その都度,ステロイド薬の鼓室内注入を行います。内服が奏効してくれば,ステロイド薬の鼓室内注入を長期にわたり中止できる症例も少なくありません。
鼓膜換気チューブ挿入後に,無菌性の耳漏が続く場合や,骨導閾値が急速に上昇するような場合には,ANCA(anti-neutrophil cytoplasmic antibody)関連血管炎性中耳炎の可能性があるので,PR3(proteinase 3)-ANCAとMPO(myeloperoxidase)-ANCAを測定します。ANCAが陽性であれば,ANCA関連血管炎性中耳炎の診断となり,ステロイド薬と免疫抑制薬の投与を開始します。ANCAが陰性であっても,組織検査などを含めて,ほかの難治性中耳炎の診断がつかないようならば,ANCA関連血管炎性中耳炎を疑い,ステロイド薬と免疫抑制薬の投与を開始します。内服が奏効するようであれば,ANCA関連血管炎性中耳炎として治療を継続します。鼓膜換気チューブ挿入例で内服が奏効した際には,チューブを抜去しても問題ありません。
また,好酸球性中耳炎として診断された症例の中に,ANCA関連血管炎性中耳炎であることが後に明らかとなることがありますので,注意深く観察しながら治療にあたることが必要です。

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