交通事故による死亡者数はこの20年余りの間に着実に減少し,最近は年間4000人台となっている。救急医療の発達,安全装置の普及,罰則強化など様々な要因が貢献したとされる。一方で,海外では運転手の意図的な死亡事故が目立ってきたと報告されている1)。元来,運転手の死亡の数%は自殺と判断できるとされるが,この割合が相対的に増えてきている。
事故の形態としては,崖からの転落,入水,車両火災,大型車両との衝突,などがありうる。交通事故は「意図しない偶発的なもの」というイメージが既成化されており,もし自殺行為を事故として偽装しようと考えたならば,交通事故は選択肢になりうる。生命保険や損害保険の都合のよい支払いを望んでいるのかもしれないし,家族に自殺の汚名がかかることを避けたい,という思いがあるのかもしれない。
自殺念慮と交通事故発生との間に,有意な関連性が知られている2)。フィンランドでは1988年に自動車衝突を自殺統計の手段として追加したが,わが国では手段・方法としての項目立てはない。2015年,高速道路におけるトンネル内の車両火災で救助された運転手が「自殺を試みた」と供述した事例があった。法医解剖では意図的な事故を疑うことがあるが,コロナー制度を持たないわが国では,誰が最終的に死因の種類を判断するのか明確でないのが現状である。
【文献】
1) Hernetkoski KM, et al:Int J Circumpolar Health. 2009;68(3):249-60.
2) Lam LT, et al:Accid Anal Prev. 2005;37(2): 335-9.
【解説】
大澤資樹 東海大学基盤診療学系法医学教授