【免疫組織化学・分子病理学的検査は,循環・呼吸・中枢神経系障害の評価に有用である】
剖検時の心・循環器系の評価として,エリスロポエチン(EPO)や低酸素誘導因子(HIF-1),血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などを利用した分子病理学的検査は有用で,特にEPO mRNAは低酸素,VEGF mRNAは虚血の指標となることから,心筋梗塞診断への応用が期待される。また,近年では,心筋梗塞例における時計遺伝子発現とカテコールアミン分泌との関わりも報告されている1)。
肺胞傷害の指標として,サーファクタント蛋白(SP-)A・D,アクアポリン,マトリックスメタロプロテアーゼ,クローディン,インテグリンリガンド(ICAM-1)などを用いた免疫組織化学的検査と分子病理学的検査を併用した総合評価は有用である。特にSP-Aの免疫染色は,窒息や中毒において膜状・顆粒状などの特徴的な染色態度を示すことから,簡易検査法として有用である。
中枢神経機能評価にユビキチンの免疫染色が有用であることは,大脳皮質活動と運動神経系ストレス反応との関連性を示唆している。免疫組織化学的検査と分子病理学的検査を併用することには,死亡過程における全身的な病態生理学的機能変化を分析できるという大きな利点がある。法医病理診断を基盤として客観性の高い検査法を駆使し,複雑な死の病態を“visualize”することにより病理形態学的診断根拠を補強することができる2)。
【文献】
1) Tani N, et al:J Hard Tissue Biol. 2017;26(4): 347-54.
2) Ishikawa T, et al:How to Learn about human Life from the Deceased. Medico-legal Consultation and Postmortem Investigation Support Center, 2016.
【解説】
谷 直人,石川隆紀* 大阪市立大学法医学 *教授