切除可能膵癌に対する現時点の世界的標準治療は,診断後の速やかな根治術(R0切除・腫瘍遺残のない切除)とゲムシタビン(わが国ではこれに加えてTS-1)による補助化学療法である。しかし,切除後の生存期間中央値(MST)は20カ月強,5年生存率は20%前後と今もって不良で,上記標準治療の限界と言える。
乳癌においては,術前治療が乳房温存率を上昇させ,また食道癌でのそれは,術後補助化学療法のみを施行する治療法と比較し全生存率を改善するなど,膵癌以外における術前治療の優位性は周知なこととなっている。
近年,切除可能膵癌の切除前にも化学療法や放射線療法などの補助療法を加える集学的治療が重要視され,エビデンスの創出が試みられている。Palmerらのゲムシタビン+CDDP-(MST 28.4カ月)(文献1),Motoiらのゲムシタビン+TS-1(術後2年生存率57.9%)(文献2)は,ともに第2相比較試験として切除可能膵癌の治療成績に一定の改善を期待させるものである。現時点で第3相比較試験結果は存在しないが,わが国においてPrep-02/JSAP-05術Ⅲ(UMIN000009634:切除可能膵癌に対する術前化学療法としてのゲムシタビン+S-1療法の第2/3相臨床試験)が,術前補助療法の優越性を検証すべく進捗している。「術前治療,是か非か」について,今後,高質のエビデンスが蓄積されることを望みたい。
1) Palmer DH, et al:Ann Surg Oncol. 2007;14(7): 2088-96.
2) Motoi F, et al:Ann Surg Oncol. 2013;20(12): 3794-801.