肝硬変に伴う腹水発症機序として(1)腎臓での過剰なNa・水貯留を一次的な原因とするoverflow説,(2)有効循環血液量の低下によるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の活性化に伴う腎でのNa・水再吸収増加を原因とするunderfilling説,(3)門脈圧亢進の結果としての末梢・内臓血管の拡張による有効循環血液量低下を主因とする末梢動脈血管拡張説,などが知られている。また,肝性因子として低アルブミン血症や門脈圧亢進症も,肝硬変に伴う腹水を難治とする要因と考えられている。そこで,RAA系抑制には抗アルドステロン薬(スピロノラクトン),Na利尿ホルモンの合成・活性低下にはループ利尿薬(フロセミド)が用いられ,アルブミン補充による膠質浸透圧の維持が図られてきた。しかし,いわゆる肝腎症候群では尿中Na排泄が得られないばかりか,低Na血症をきたし,難治性腹水となる。
トルバプタンは,腎集合管に存在するバソプレシンV2受容体に対する拮抗薬で,集合管での水再吸収を阻害し,Naの尿中排泄を増加させずに水の尿中排泄を増加させる(文献1)。このため,肝硬変の際にみられる高バソプレシン血症と水貯留・低Na血症の病態を改善するために有効である(文献2)。わが国では心性浮腫に対しての保険適用であったが,肝性腹水・浮腫に対しても保険適用となり,難治性腹水に対する効果が期待されている。
1) Yamamura Y, et al:J Pharmacol Exp Ther. 1998; 287(3):860-7.
2) Okita K, et al:J Gastroenterol. 2010;45(9): 979-87.