唾液腺癌は頭頸部癌の約5%を占める比較的稀な疾患であるが,組織型が多彩であり最新のWHO分類では24種類に及ぶ。その悪性度も様々であり,高悪性度なものは再発転移が多く予後不良である。手術が標準治療であるが,放射線感受性が低く,有効な化学療法も確立していないため,再発転移に対する救済治療が課題となっている。
近年,唾液腺癌に対する治療標的分子の解析が報告されているが,その中で注目されているのがヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)である(文献1)。HER2は唾液腺癌の中でも特に悪性度が高い唾液腺導管癌に特異的に発現している。
わが国の唾液腺導管癌に関する研究会における症例解析によると,唾液腺導管癌の49%がHER2陽性であった。さらに,HER2陽性唾液腺癌の再発転移症例に対し,抗HER2抗体(トラスツズマブ)と化学療法の併用が有効であったという報告も認めている(文献2)。
現在進行中の,国際医療福祉大学三田病院における臨床試験(トラスツズマブ+ドセタキセル療法)の中間報告では,奏効率は82.4%であった。そこで現在,北海道大学病院を中心に,HER2陽性唾液腺癌に対するトラスツズマブの保険適用拡大を目的とした多施設第2相臨床試験を計画中である。
1) Locati LD, et al:Oral Oncol. 2009;45(11):986-90.
2) Nabili V, et al:Head Neck. 2007;29(10):907-12.